現代社会ではさまざまなことがインターネット上で行える。ショッピングはもとより、調べ物や連絡のやり取り、広告やPRなどもインターネット上で盛んに行われている。それは教会も同じで、今ではほとんどの教会がなんらかの形でインターネットを利用しているはずだ。インターネットで教会を紹介する上で最もスタンダードなのが、教会のホームページを作ることかもしれない。教会やキリスト教団体のホームページ制作に携わる「工房ヒラム」の責任者・小牧由香さんに話を聞いた。
聖書にはヒラムという名の人物が2人登場する。一人が港湾都市ティルス(現在のレバノン)の王。もう一人が同じくティルス出身の青銅器職人。この2人は共にイスラエルの王、ソロモンが初めて神殿を建てるときに、外国人でありながら重要なポジションで関わった人物である。王のヒラムは材料になる膨大な量の木材を調達し、ソロモンに送った。一方の青銅器職人のヒラムは、神殿の青銅器具を打った職人だ。この工房の名前の由来になったのは後者のヒラムだそうだ。
「異邦人でありながら神様の御用のためにわざわざ呼び出される、そういう働きができればと思った」と小牧さん。青銅器職人ヒラムは現代でいうディレクターのような立場だったと言い、「神殿建設の現場では、イスラエルの神様を信じていない人もいて、彼らをリードする必要もあったし、もの作りに対してもひたむきで、相手が王様であっても職人として意見するような頑固さやこだわりを持っているところが、カッコいいなあと思いました」と、名前の由来となったヒラムの魅力を語る。
彼女がホームページの制作を開始したのは2001年。システムエンジニア(SE)の経験があった小牧さんは、洗礼を受けたあと、教会の奉仕でホームページの制作を任された。独学で真心込めて作ったホームページだったが、しばらくして、技術的にもデザイン的にも「これじゃダメだ」と思うようになったという。「最初は『初めてやったにしてはよくやった方でしょ?』と思っていましたが、クオリティーの低さが悔しかった。それがきっかけで学び続けたら、どんどん楽しくなっていったんです」と当時を振り返る。
ホームページ自体のクオリティーは改善したものの、次にぶつかった壁は「作っても更新は自分しかできない」ということだった。「ホームページは、教会の組織と連動して色んな人が関わっていくことが大切だと考えるようになりました」と小牧さん。「同時に複数体制で運用できるように、新しい技術を取り入れることが必要だと気付きました」と語る。
そんな彼女が新たに導入したのは、コンテンツ・マネージメント・システム(CMS)。ホームページに関する技術的な知識がなくても、テキストや画像などを用意できれば、誰でも情報発信に参加できる方法に切り替えた。またデータはインターネットのサーバー上に置き、どんな場所からでもホームページを更新できるようにして、複数体制で更新できるようにした。
これは当時のホームページ制作現場では、企業などでしか取り入れられていなかった方法だという。頻繁に更新され、新しい情報が増えていく教会のホームページは異彩を放ち、他の教会からも問い合わせが来るようになった。最初は「手伝う」というスタンスで関わったが、「ヒラムのように、呼ばれた場所でちゃんと取り組むべき」と考えるようになり、2009年頃から「工房ヒラム」として活動を本格的にスタートした。
5年経った現在、「工房ヒラム」は月に2~3の顧客を抱えている。「現代はフェイスブックやツイッターなど、ネット上に多くの人の注意が集まっています。であれば、例えば田んぼに看板を立てるより、人がたくさんいる場所に広告を出した方がいいように、インターネットの中にも看板を立てるといいですよね。若い人は、特にスマホで情報を得ますから、ホームページは強力な伝道ツールですよね」とこの分野の重要性を語る。
「新しい技術に対して、消極的になってしまう気持ちはありますが、イエス様は人々に教えるとき、伝えるために最も効果的な場所や方法を選んでおられたように思うのです」と小牧さんは言う。「自分たちが慣れ親しんできたやり方を悪いというのではなく、今一番伝わりやすいのはどんな方法かということを求め続け、時代のニーズに応えていくことが大切だと思うのです」
一方、ホームページを作ることは、教会の新しい「発信ツール」を作ることだけにとどまらない。小牧さんは、「ホームページを作ることは、教会がどういう伝道をやっていこうかと、あらためて考えるきっかけとなりますし、私も現状を知ったり、問題点に気づかされたりする良い機会になっています」と言う。
これまでに制作したホームページの数は、教会やキリスト教団体だけでも80件を超える。ホームページを運営する上で必要となるサーバーやドメインの契約、またホームページの管理作業も行っている。予算がない小規模な教会には、無料・格安のホームページサービスの紹介も。詳細は「工房ヒラム」のホームページで。