フライパン曲げでギネス記録を持つジョン・プリティキンさんの講演会が、1月22日から27日まで、東京、大阪、仙台など日本各地で行われた。
彼の記録は、2009年版ギネスブックの12ページに記載されている。それはなんと、フライパンを素手で新聞紙のように巻いて筒にしてしまうというものだ。他にも、女性がぶら下がっても曲がらない鉄の棒を歯で曲げたり、タウンページのような厚手の本を素手で引きちぎったり、バットをへし折ったり、氷嚢(ひょうのう)に息を吹き入れて破裂させるなど、講演ではその怪力を示すパフォーマンスを数多く行う。しかしそのパフォーマンスには、ある一つのメッセージが込められていた。
プリティキンさんは、カリフォルニア在住の41歳の米国人。母国の米国はもちろん、欧州やアジア、中東など世界40カ国で同様の活動を行っている。彼は誰もが驚く怪力を披露するとともに、必ず一人の少年のストーリーを語る。
その少年は重度の学習障害と診断され、読み書きが上手にできなかった。そのため、6歳の頃からいじめを受け続けたという。クラスで省かれ、給食の時間すら一人ぼっちだった。先生も彼を無理やり障害者のクラスに編入させようとしたこともあった。
ある時は、25人もの生徒に“遊び”と称して学校中を追い掛け回された。その時、足を引っかけられ転倒し、あごを縫う大けがを負った。しかし、生徒たちは彼の姿を遠くから笑うだけで、誰一人助けることはなかった。ある教師からは「何もできない生徒」と罵倒され、誰にも助けてもらえない状況に苦しみ続けた。しかし母親は転校するたび、「今度はきっと大丈夫」と彼を励まし続けた。
そんな彼の転機は高校時代だった。その頃出会った恩師は、それまで彼が出会ってきた多くの人のように彼を“出来損ない”と呼ぶことはしなかった。恩師の懇切丁寧な指導を受け、彼は少しずつ勉強ができるようになり、別の教師に絶対無理と言われた大学進学を果たす。さらに大学入学後も猛勉強を続け、何と首席で卒業。後に恩師は「君を誇りに思う」と語ってくれたという。
ここまで話して、プリティキンさんは言葉を一度切る。「彼より苦しい経験をしたことがある人も、この中にはきっといるでしょう。それが起こってしまったことに対して、私が言えることは『ごめんなさい』と『それでもあなたは特別です』」と語り掛ける。
ここで語られた少年とは、なんとプリティキンさん本人。自分の体験と、今の姿をパフォーマンスで見せることによって観客全員に、「皆さんは一人ひとりが特別です。誰かがあなたのヒーローになるかもしれないし、あなたが誰かのヒーローになることもできる。だから絶対に諦めないでください」と語り掛けるのだ。
プリティキンさんは、こうした活動を妻と共に1994年から始め、「Feel the Power(みなぎる力)」と呼んでいる。過去20年に延べ750万人以上の世界中の若者を励ましている。また、生徒たちの心を捉えるだけでなく、教師陣からも温かい好意を持たれ、主に学校やスポーツチーム、企業のイベントなどで数多く講演を行っている。活動の詳細や問い合わせはホームページで。