イスラム国に拘束されている後藤健二さんの妻が29日、声明を発表した。事件発生後、後藤さんの妻が公に発言するのは今回が初めて。声明は英語の音声で、ロイター通信と、英国のフリージャーナリスト支援団体「ローリー・ペック・トラスト」などを通して発表された。後藤さんの妻は、イスラム国に声明を出すよう強いられたことを明かした上で、日本とヨルダンの両政府に、後藤さん、また同じく拘束されているヨルダン人パイロットの解放のために働き続けるよう求めた。
一方、28日深夜にイスラム国によって公開されたとみられる後藤さんを名乗る音声は、現地時間の29日日没(日本時間29日深夜)までに、サジダ・アル・リシャウィ死刑囚を釈放し、後藤さんと交換しなければ、ヨルダン人パイロットを直ちに殺害すると警告していた。ヨルダン政府は、パイロットとリシャウィ死刑囚を交換する用意があると表明したものの、パイロットの生存が確認できていないとして、リシャウィ死刑囚をヨルダン国内に留めた状態にしている。
期限となった29日日没からはすでに半日ほどが経過しているが、イスラム国は新たなメッセージを発信しておらず、緊張した状態が続いている。
後藤さんの妻による声明(英語)の日本語訳は下記の通り。声明はロイター通信には音声のみで出されているが、ロリー・ペック・トラストのウェブサイトでは、文章も公開されている。
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私の名前は、(妻の名前)です。私はシリアの組織によって捕らえられているジャーナリスト・後藤健二の妻です。彼は2014年10月25日、私から取られてしまいました。以来、私は彼の解放のため、陰でたゆまず努力をしてきました。健二の苦境によって世界中に作り出されたメディアの関心から、私の子どもたちと家族を守るため、今まで公に話をすることはしてきませんでした。
夫と私には、とても幼い2人の娘がいます。赤ちゃんの娘は、健二が出発したとき、まだ生後三カ月でした。私は、まだ2歳に過ぎない上の娘が、彼女の父を再び目にすることを願っています。2人が父を知って成長してほしいです。
夫は、人々の苦しみを伝えるためシリアに行った善良で誠実な人です。湯川遥菜(はるな)さんの状況を探ろうとしていただろうとも思います。遥菜さんの死を心から悲しく思います。私の思いは彼の家族と共にあります。彼らが経験してきたこと全てが分かります。
健二を捕らえているグループからのメールを(昨年の)12月2日に受け、健二がトラブルに巻き込まれていることを知りました。
1月20日、湯川遥菜(はるな)さんと健二の命のために、200億ドルを要求する映像を見ました。それから、そのグループと私の間で幾つかのメールのやり取りがあり、私は彼の命を救うために戦ってきました。
過去20時間の間に、誘拐犯たちは、最新で最後と思われる次の要求を送ってきました。
(妻の名前)、このメッセージを今、世界のメディアに公にし、発表しなければならない!次は健二だ! 1月29日木曜の日没まで、トルコ国境でサジダ(死刑囚)が健二との交換のために準備されていなければ、ヨルダン人パイロットは直ちに処刑される!
私は、これが夫にとっての最後のチャンスとなるのではと恐れています。今、彼の解放、また(ヨルダン人パイロットの)ムアーズ・カサースベ中尉の命を確保するために、数時間しかありません。ヨルダンと日本の両政府に、2人の運命が彼らの手にかかっていることを理解してもらうよう、切に求めます。
ヨルダンと日本の両政府のあらゆる努力に感謝します。ヨルダンと日本の両国民の思いやりに感謝します。私が幼かった頃、私の家族はヨルダンにいて、私は(ヨルダンの首都)アンマンの学校に12歳になるまで通いました。ですので、私はヨルダンとヨルダンの人々に大きな愛着と思い出があります。
最後に、この3カ月間にわたって私の娘たちと私を支えてくださった、私の家族、友人、健二の仲間の方々に感謝します。
夫とヨルダン人パイロットのムアーズ・カサースベ中尉の命のために祈ります。
(妻の名前)