「仏教保育だけどクリスマス楽しんで ハッピーホリデーに園児大はしゃぎ」というニュースが、福井新聞から報じられた。
仏教保育を行う聖徳幼稚園(福井市)が、初めて「ハッピーホリデーのつどい」を開催したというもの。園児たちにクリスマスの雰囲気を楽しんでもらうことを目的としているのだそうだ。英語圏では、キリスト教以外の宗教の人への配慮として、「メリークリスマス」の代わりに「ハッピーホリデー」というあいさつが交わされるという話を聞いた、同園の園長の発案なのだとか。
クリスマスは、「Christmas」と書くことからも分かるように、キリスト教(Christianity)の行事だ。イエス・キリストが生まれた日が12月25日という根拠はない、といった話もよく聞かれるが、「神であられる方が人の姿をとってこの地に来てくださった」という大きな恵みをあらためて思い返す時期として、数あるキリスト教行事の中でも特に盛大に祝われる。
キリスト教だけにとどまらず、「神」の存在を抜きにして宗教文化を取り入れることに抵抗の低い日本人。「クリスマスは、イエス・キリストの誕生を祝う行事なんですよ」と聞いたところで、「そうなのか」「楽しければなんでもいいや」で済んでしまうかもしれないが、世界を見渡せばそうはいかないことの方が多い。
特に、他民族国家の米国では、毎年この時期になると「メリークリスマス VS ハッピーホリデー」論争が必ずと言っていいほど巻き起こる。11月の第4木曜日の感謝祭(Thanksgiving Day)が終わると、11月の末から年始にかけてのあいさつは「メリークリスマス」になるのだが、やっかいなことにこの時期に宗教行事があるのはキリスト教だけではないのだ。
まず、クリスマスに対抗する一番大きな行事が「ハヌカ」。別名「光の祭り」とも呼ばれるユダヤ教の行事だ。紀元前2世紀から伝わるこの祭りは、他のユダヤ教の祭りと同様、ユダヤ暦に基づいて日程が決められる。キスレヴの月の25日から8日間祝うことになっているが、現代の暦でいうところの12月に当たる。今年は、12月16日からの8日間で、ちょうどクリスマスシーズンのピークと重なる。
そしてもう一つ、「クワンザ」というアフリカ系米国人の祭りがある。宗教行事の色は薄く、アフリカの収穫祭に基づいた文化的な祭りであるが、12月26日から7日間にかけて行われるのだ。
起源や主旨は異なるものの、いずれの行事もろうそくに火をともし、子どもから老人まで家族や親族揃って、おいしいものを食べるイメージは同じ。一般的に、この3つの行事に対して「ハッピーホリデー」とあいさつされる。
いつから「ハッピーホリデー」が使われるようになったか正確な年は不明だが、遅くとも2000年にはあちらこちらで聞かれるようになり、05年には世界最大のスーパーマーケットチェーン、ウォルマートが「メリークリスマス」を「ハッピーホリデー」に置き換えたことが知られている。
それから10年近くが経とうとしている今、英語圏では完全に「ハッピーホリデー」が受け入れられたのかというと、そうでもないらしい。
カナダのニュースサイト「CTV NEWS VANCOUVER」によると、レスブリッジ大学アンガス・リード研究所が1500人以上の成人を対象に新たに行った世論調査で、「80%の人がこの時期をホリデーシーズンと呼ぶより、クリスマスシーズンと呼ぶ方が好ましいと感じている」ことが分かったという。また、宗教・文化的背景に関係なく、94%の人が「友人や家族と共に過ごすクリスマスは特別だ」と答えたという。さらに、調査の中で最も驚くべきことは、54%の人が「キリストの誕生を祝うことが最も大切なこと」だと、クリスマスの宗教的側面を捉えているという結果だ。
カナダの日刊紙ナショナル・ポストも、「メリークリスマスの再起で、ハッピーホリデー戦争が始まる」と題し、市場においても「クリスマス」という言葉が再び受け入れられ始めているというマーケティング専門家の指摘を取り上げている。
人口の60パーセント以上がキリスト教徒のカナダだから、そのような結果が出たと言ってしまえばそうかもしれない。しかし、一足遅れて日本でも「ハッピーホリデー」が聞こえ始めたここ数年。クリスマスの主役がサンタに乗っ取られていた時代は終わり、気づけばクリスマスという言葉すらなくなってしまうのではないかと危惧しているクリスチャンには、一つ朗報かもしれない。
たとえクリスチャンでない人であったとしても、「そんなあなたにこそ、イエス・キリストが訪れますように」という祈りを込めて、今年も「メリークリスマス!」とあいさつしたいものだ。