フランシスカン聖クララ会のラ二・マリア・バッタリル修道女を殺したことで懲役刑に服したサマンダル・シン元受刑者が、遺族の示した赦しによって「新しい人生を見出した」と語った。カトリック・ニュース・サービス(CNS)が10月30日、インド中部マディアプラデーシュ州ユーダイナガーからのニュースとして報じた。
シン元受刑者がCNSに語ったところによると、バッタリル修道女の妹で自らもフランシスカン聖クララ会メンバーのセルミー修道女が2002年、シン元受刑者の刑務所を訪れた。赦しの言葉を伝え、シン元受刑者の手にラキと呼ばれる聖なる糸を結び付け、兄弟として受け入れることを示した。
ラキは、兄弟や姉妹同士の愛と義務を祝うヒンドゥー教のお祭り。その中に、姉妹が兄弟の手首に聖なる糸を結ぶことによって、血縁のあるなしに関わらず保護関係を示すという儀式がある。「それによって、私は新しい人生を見出した」。有罪判決を受けた後、妻にさえ見捨てられたという46歳のシン元受刑者は、目を輝かせながら語った。
警察によると、シン元受刑者は1995年、ジャングルの地域にいた50人を超えるバスの乗客の目の前で、バッタリル修道女を54回にわたり刺し続けた。だがそれは、バッタリル修道女が村の女性たちの組織する自助グループの中で行っていた社会事業で影響を受ける、貸金業者の命令によるものと見られている。シン元受刑者は、殺人罪で死刑判決を受けたが、その後、終身刑に減刑された。
「ラ二・マリア」は女王マリアを意味する。「ラキと女王マリアの祝祭日にあたる8月22日、刑務所にいる彼を訪問しました」と語るセルミー修道女は、シン元受刑者を赦すことは、バッタリル修道女が死んだ直後すでに決めていたと明かした。
バッタリル修道女は2007年、「神のしもべ」という称号を与えられた。現在、列聖の可能性も考慮され、人生と奉仕活動に関する文書が集められている。
セルミー修道女とシン元受刑者が出会う道を切り開いたのは、汚れなきマリアのカルメル会修道士、スワミ・サダナンド神父だった。サダナンド神父は、インドールで数回にわたってシン元受刑者を訪問した。
サダナンド神父はその後、シン元受刑者を刑務所から釈放するよう訴え出た。セルミー修道女とその両親、教会役員が宣誓供述書の署名を行い、裁判所は06年、釈放を認めた。シン元受刑者は07年1月、セルミー修道女の父親、パウロ・バッタリルさんを訪ね、謝罪した。キャサリン・マッギルベレイ氏による56分間のドキュメンタリー映画『殺人者の心(Heart of a Murderer)』は、バッタリル修道女の死とシン元受刑者の回心を伝えている。
ヒンドゥー教徒のシン元受刑者がキリスト教を信奉することは、ヒンドゥー原理主義者からは快く思われていない。シン元受刑者は、キリスト教を受け入れていないと語ったが、セルミー修道女との「絆」を傷つけたくはないと付け加えた。セルミー修道女のことは「ディディ」、つまり姉と呼んでいる。
「これは宗教ではなく愛の絆の問題だ」とシン元受刑者は語る。「だから、私は彼女を傷つけたくなかったし、このことを彼女には決して知らせなかった」
※ この記事は、CNSのアント・アッカラ記者による英文記事の一部を、本紙が同記者から許諾を得て日本語に訳したものです。