世界で最も名高く、最も多くの人々に読まれている本「聖書」。その中でも最も広く知られたイエス・キリストの数奇な生涯を描いた映画『サン・オブ・ゴッド(原題:Son of God)』が、来年1月10日に日本でも全国公開される。
この映画は、米国のヒストリーチャンネルで昨年放送され、大反響を巻き起こしたドラマ「ザ・バイブル」を元に、同ドラマの製作総指揮を務めたマーク・バーネットと妻のローマ・ダウニーが、イエスの生涯にフォーカスを絞って再制作した映画。イエスの母マリアをローマ・ダウニー自身が演じるなど、製作者のこの作品への思い入れとイエスへの愛が演出の随所に感じられる。
物語は十二使徒最後の生き残り、ヨハネの回想として始まる。「はじめに言葉があり、言葉は神と共にいた。言葉は神であった」とヨハネによる福音書1章の冒頭から始まり、「イスラエルの王」と預言されたイエスの誕生、ペテロやマタイとの出会い、ラザロの復活やパリサイ派との論争など、聖書の有名なエピソードを織り込みながらイエスの通った軌跡をたどる。
その過程で現代と変わらない、当時の社会的な問題も徐々に浮き彫りになっていく。戦争、強者による弱者からの搾取、暴力、病気、仕事、金銭問題、さまざまな差別、離婚や浮気の問題に宗教や習慣の違い。それらに対して当時から人は皆、解決策を求め、預言の書にある「王である救世主」の登場を待ち望んでいた。
そのような時代にイエスは奇跡を起こして病人を癒し、「掟」や「法律」ではなく、「誰でも平等に愛する」という行動で差別されている人々の心をつかんでいく。ローマ帝国の圧政に苦しんでいたユダヤ人はイエスを「王」と呼ぶようになり、ローマから独立するための戦いを期待し始める。しかし、イエスは聖書の言葉を用いて言う。「力で支配をするな。自分がしてほしいことを相手にもすることが愛だ」と。
イエスを支持する人々はどんどん増えていく。こうした彼らの熱狂に、自らの立場を脅かされるのではないかと恐れるユダヤ教の指導者たち。そして、世界の全てを力で支配しようとするローマ皇帝を恐れる提督。人間の感情や誤解、思惑がやがて一人の罪無き者を十字架の上へと追いやっていく。それこそが全ての人のために立てられた神の計画とは知らずに。
監督はドキュメンタリードラマの第一人者として知られるクリストファー・スペンサー。聖書の壮大な物語を、初めて触れる人のためにシンプルでコンパクトにまとめつつ、イエスの奇跡、それを見た当時の人たちの驚き、不信感、渦巻く欲望などの「ある種の人間臭さ」を、『ダークナイト』や『マン・オブ・スティール』などを手掛けたハンス・ジマーの音楽が壮大なスケールと緊迫感で演出する。
全ての預言書に書かれたことが実現し、イエスが天に帰って数十年後、唯一生き残って、ひとり年老いたヨハネが全てを語り尽くすシーンで物語は終わる。そのシーンも、ヨハネがため息を吐いた直後に「私はアルファ(始まり)であり、オメガ(終わり)である」と聞いて振り返る場面で終わるなど、原作ドラマ「ザ・バイブル」のファンや聖書を読んだ人なら、思わずニヤリとしてしまう演出も散りばめられている。
上映時間は138分。国内の宣伝担当者は、「多くの日本人は『宗教』と聞いただけで、どんな名作、話題作でも構えてしまいがちだけど、この映画はキリスト教信者じゃなくてもシンプルに楽しめるスペクタクルドラマ。この物語に詳しい人も、『すべての物語は、ここから始まる』のコピーの通り、日本人でも知っている有名な逸話や何となく知っていたという話が、『実はこういう意味だったんだ』と再発見しながら鑑賞できる。クリスチャンの方はもちろん、キリスト教を信じてない人でも、ぜひ劇場に足を運んでこの物語を堪能してほしい」と語ってくれた。
映画は来年1月10日から新宿ピカデリー、丸の内ピカデリー他で全国公開される。