甲状腺がんから奇跡の復帰を遂げた、韓国人テノール歌手ベー・チェチョルさんの実話をもとにした映画『ザ・テノール 真実の物語』が、10月11日(土)から全国ロードショーされる。
声帯と横隔膜という、歌手のいのちとも言える2つの臓器の神経を切断。歌声だけでなく右肺の機能も失ってしまうという絶望の中から、多くの支えによりカムバックを果たしたその奇跡の物語は、多くの人々に感動を与えた。また、チェチョルさんは教会のコンサートや伝道集会にも数多く出演し、賛美と証しを届けてきた。日韓合作のこの映画でメガホンを取ったキム・サンマン監督に話を伺った。
— ベー・チェチョルさんの話は、日本でもさまざまなテレビ番組で形で取り上げられてきましたが、映画化のきっかけは?
この作品はプロデューサーのジェニーさんが企画され、監督を探していたところ、私にオファーがありました。最初にドキュメンタリーを見ましたが、その内容にとても感動しました。必ずこの物語を映画として撮りたいと思いました。また、その内容が感動的だっただけではなく、以前から音楽映画を撮りたいという思いがあり、その2つの理由でこの映画を撮ることを決めました。
— 実際にドキュメンタリーを見られてどのような感想をお持ちになりましたか?
2人の主人公とも言える、実在の人物であるベー・チェチョルさんと沢田幸司さんの、利害関係のない純粋な人と人としての心の交わりがとても感動的でした。教会で歌うシーンも登場しますが、これもとても感動的でした。心を揺さぶるシーンがあり、これを映画にも盛り込みたいと思いました。
— 映画化する上で特にこだわった点は?
元々音楽がとても好きで、いつか音楽映画を撮りたいという思いがありました。感動的な物語だけではなく、この映画を通じて美しい音楽と華やかなステージを観客の皆さんにお見せたいと思いました。そのため、当初計画していたよりもステージの演出の規模がどんどん大きくなっていきました。また同時に、オペラの曲・歌詞を通して物語を伝えていくという方式で映画を撮ってみたいという思いもありました。
— 映画の選曲は全て監督がされたと聞きました。オペラの内容からも、映画のストーリーが分かるようになっているのでしょうか?
映画のストーリーに合わせ、それに合うオペラを選んでいますが、オペラはその曲だけではなく、歌詞を通してストーリーを伝えていくという役割をしています。たとえば、ベー・チェチョルさんが最も華やかだったときは、自信に満ちた内容のオペラの曲と歌詞が流れますし、挫折しているときには、神から呪われたことを嘆く内容のオペラが使われています。最後の復活したところでは、気づきについての曲が流れるというように、ストーリーが流れています。
— 東日本大震災により撮影が中断されたと聞きました。
ジェニーさんが企画を立ち上げ、日本の制作会社に当たっている中で、当初は仙台で撮影する予定でした。仙台にはベー・チェチョルさんのファンもおられ、出資をしたいという話もあり、そういう方向で進んでいましたが、震災でいろいろな紆余曲折がありました。
— 日本、韓国、セルビアの3カ国で撮影を行なわれていますが、どんなエピソードがありましたか?
この映画は、企画の段階では撮影に入る前にさまざまな苦難がありました。日本での本当に悲しい震災という出来事もありましたし、厳しい曲面がいくつもありました。しかし、いざ撮影に入ってからは、不思議なほど、スタッフ・俳優が一丸になって、本当に楽しく撮影を終えることができました。
スタッフと俳優だけではなく、映画の撮影では第三のスタッフとも呼ばれている、天候が大きく関係してきます。現場で予測できない天候の変化によって、撮影が遅れてしまうことはよくありますが、われわれの現場では逆に天候が撮影現場を助けてくれました。
雪が降ってほしいというセルビアでのシーンでは、雪がまさに降りました。日本では、今日は雨が降るらしいからと言って、撮影を早く終えなければならなかったとき、ちょうど最後の撮影シーンのOKサインが出たのと同時に大雨が降り出したということもありました。(続く)
■『ザ・テノール』監督インタビュー:(1)(2)