先月15日にアカデミー賞歌曲賞にノミネートされた米映画『Alone Yet Not Alone(日本語訳:一人でも独りではない)』が同月29日、米映画芸術科学協会によりノミネートを撤回された。
それほど知られていなかった無名のクリスチャン映画がアカデミー賞にノミネートされたということで注目を集めたが、同映画主題歌の作曲者が同賞審査員に対する指導者としての立場を不当に利用し、同映画を候補に選ぶよう仕向けていたという疑惑によりノミネートが撤回された。
映画『Alone Yet Not Alone』と同じタイトルの主題歌がアカデミー賞歌曲賞に選ばれた時、映画評論家や同映画の作曲家は驚いていたが、映画の関係者が全員、アカデミー賞業界と無縁だった訳ではなかった。
この歌を作曲したブルース・ブロートン氏は、アカデミー賞認定団体、米映画芸術科学協会の音楽部門の元理事で、同協会実行委員会の現会員である。映画芸術科学協会の会長シェリル・ブーン・アイザックス氏は、「ブロートン氏を厳しく取り締まったのは、彼が映画を広くアピールしてもらえるよう他の協会メンバーにメールを送ったからではなく、この協会内で指導的立場にある人として適切な行動から外れていたからだ」と説明する。
アイザックス氏は「いくら悪意がなかったとはいえ、元理事、現実行委員会メンバーとしての立場を利用し、自らをアカデミー賞候補として提出するというのは、不当に有利だと見られても仕方がない」と指摘する。
米エンターテインメント・ウィークリー誌に対するコメントの中で、ブロートン氏は自身の指導的立場から来る利害の対立の可能性については何も触れなかったが、アカデミー賞でのノミネートが同氏よりもさらに影響力のある人たちによって奪われたことを示唆した。この歌は、障害者権利保護活動家で作家のジョニ・エリクソン・タダ氏が歌い、テイラー・スウィフト、ラナ・デル・レイ、エド・シーランらの歌を抑えて今回同賞にノミネートされていた。
ブロートン氏は「非常にショックだ。非常に単純な草の根運動をしただけなのに、歌が注目を浴びたとたんに形勢が悪くなった。何カ月も宣伝や広告をしてもらえる競争相手に撃ち落とされた。僕は、ただ単にこの歌を聞いてみて、考慮して欲しいとお願いしただけだ」と書いている。
米CBS放送が公開したメールの中で、ブロートン氏は映画芸術科学協会のメンバーたちに「エントリーナンバー57番にあえてご注目頂きたい・・・。これは、ご考慮頂ければ、という依頼に過ぎない。このメールを送る理由はただ、こんな小さな独立映画会社が製作した信仰がテーマの映画に、協会の音楽部門のメンバーが目を留める可能性が非常に低いと思うからだ。この歌の存在に誰かが気付いてくれるための方法は、これしか思いつかない」と書いている。
CBS放送のベン・トレーシー氏は、ブロートン氏に「誰かがあなたのメールを受けとり、あなたの名前に気付き、協会でのあなたの地位を知っていて、『あれ(『Alone Yet Not Alone』)に投票しよう』と決めるだろう、と推測できるか」と尋ねた。ブロートン氏は、「とんでもない!僕は協会でどんな地位も持っていない。協会の理事を辞めてからもう2年になる」と答えた。
同映画のアカデミー賞ノミネートが初めて発表された時、ブロートン氏はエンターテインメント・ウィークリー誌に、同映画の知名度を上げようと手助けをしたことを公然と認めている。ブロートン氏は「映画芸術科学協会の音楽部門では、全ての歌を1つのCDにまとめて入れる。この歌が本当に簡単に見落とされるのではと心配したんだ。それで、幾人かに『聞いてくれるだけでも良いから』とメールを送ったんだ。やったことは、文字通りそれだけだよ。他の映画からは、レコーディングされ市販されているCDの歌を郵便で受け取ったが、僕たちはそんなことは一切していない」と弁明する。
同協会は、新たなアカデミー歌曲賞候補は立てない予定。このカテゴリーで残る候補は、『フローズン』『怪盗グル―のミニオン危機一発』『her/世界で一つの彼女』『マンデラ:自由への長い道』の4作品となる。