米映画『Alone Yet Not Alone』(日本語訳:一人でも独りではない)が今月15日、アカデミー歌曲賞にノミネートされた。昨年に9つの都市でしか上映されなかったクリスチャン映画がアカデミー歌曲賞の候補として選ばれ、批評家や、その歌の作曲家、歌手を驚かせている。
この歌のボーカルを務めたジョニ・エリクソン・タダ氏は、同賞にノミネートされたことに本当に驚いていると明かしている。作家であり画家でもある彼女は、「Joni and Friends(ジョニと友達)」という団体を運営する四肢まひ障害者でもある。
タダ氏は、「正直言って私は、映画の曲を歌って欲しいと頼まれる可能性が一番低い人間だから、もうすごいことなんです。家族向けの、クリスチャンテーマの映画が、どの部門にしてもアカデミー賞にノミネートされることは驚くべきことです。(クリスチャン映画は)『しあわせの隠れ場所』(原題:The Blind Side)以外はノミネートされていないし、それも素晴らしいことだったけど、普通に起こることじゃないんです」と、米ザ・ハリウッド・リポーター紙に答えた。
この歌を作曲したブルース・ブロートン氏は、1986年に『シルバラード』でアカデミー作曲賞にノミネートされたことがあるが、このニュースに衝撃を受けている。ブロートン氏は映画情報サイト「ヤフー映画」で、「未知の実力を持つダークホースとは到底呼べるものじゃなかったよ。目につかない馬だったはずなんだ。(歌詞を担当した)僕の作曲パートナー、デニス・スピーゲルが電話してきたんだが、興奮し過ぎて、ほとんど口がきけなかったよ」と述べている。「賛美歌みたいな優しいメロディーを探そうとしていただけなんだ。強いメッセージで自己主張するような歌ではなくてね」とブロートン氏は付け加える。
歌のレコーディングに参加することになった時、タダ氏はスタジオ録音の経験はほとんどなかった。「今の毎日の生活に、音楽の世界はとても遠い存在だったの。だから、朝起きて、私がしたことがアカデミー賞にノミネートされているのを見たら、ただくすくす笑いたくなって。『え、何?信じられないわ』と思ったの。こういうことはテイラー・スウィフトやキャリー・アンダーウッドに起こることで、私に起こることじゃないでしょ」とタダ氏。
米国で2013年9月下旬に封切られた『Alone Yet Not Alone』は、同じタイトルの書籍を原作とした映画で、アメリカ先住民にさらわれた後、キリストへの信仰を手放そうとしなかったドイツ人アメリカ移住者の女の子2人の実話である。同映画を製作した映画製作会社エンスーズ・エンターテイメントは「神に栄光を与える、信仰に基づいた、家族向けの映画を作ることで、人の魂が神を求め、神を知りたいと願う思いを呼びさますことが我々の使命だ」と説明する。
映画がアカデミー賞にノミネートされたというニュースが公表されて以来、アメリカ先住民の否定的で屈辱的な描写があると、批判する批評家もいる。アメリカ先住民運動家のサイト「Native Appropriations」は、映画、テレビ番組、ハリウッドスターの情報サイトIMDBが、映画の要旨として、映画の中心となる争いごとを「攻撃的な先住民の部族たちが貧弱な辺境の開拓農民を襲撃している」と表現したり、女の子たちの誘拐を「原住民の異質な文化に強制的に入れられた」と表現したりしていることを批判している。サイトは「最近は人種差別主義にオスカーを与えるのか」と問うている。
映画を推薦する人たちの中には、元大統領候補のリック・サントラム氏、米家族研究協議会会長のトニー・パーキンズ氏、フォーカス・オン・ザ・ファミリーの元会長ジェームズ・ドブソン博士などを含む、保守的な福音派の大物実力者たちが多い。
しかし、この映画は主流の映画批評家からは殆ど注目を得られず、映画レビューをまとめて集計するサイト、ロッテン・トマトにもレビューは1つも載っていない。一方、父の日に合わせ、6月13日の週末に再封切されることがツイッターで発表された。
アカデミー歌曲賞の他の候補者には、『フローズン』『怪盗グル―のミニオン危機一発』『her/世界で一つの彼女』『マンデラ:自由への長い道』などが挙げられている。アカデミー賞授賞式は3月2日、米ロサンゼルスで行われる。
■ 映画『Alone Yet Not Alone』(米、2003)の予告編(英語)