非キリスト教徒が非キリスト教徒のままで理解できる翻訳作業が必要
女性牧師を認めることについては、「キリスト教の外から来る人道という価値観に、『時代は時代だからそろそろ合わせないといけない』という考え方で教団が認めるということは、キリスト教の内側からそれを認めているわけではありません。そのような決め方で良いのかどうかということはもう少し考えるべきです」と述べた。
また聖書が現代人に合わせて翻訳される必要について、「キリスト教はキリスト教であるが故に、人道的であるといえる宗教になるべきです。それを妨げているのが、『聖書が聖書である』ということではないでしょうか。いったん聖書を非神話化し、再神話化する。そうすることで、非キリスト教徒の人にも非キリスト教徒のままで聖書の言っている内容を理解できるものへと翻訳することができるようになります。再神話化というのはつまり現代人への聖書の翻訳です。ヘブライ語のエロヒームを神と訳して何の問題もありません。しかしイエス・キリストが『油注がれた者』と直訳してみても、あまり意味がわかりません。そのような言葉を現代人に分かることばで説明することも翻訳のひとつです。再神話化というのは、そういう意味での翻訳にすぎません。聖書を翻訳するという作業は常に必要です。古代人が書いたものなのですからあたりまえです。同じ言語だとしても、時と場所が変われば異なる言語に訳されるのは当たり前であり、現代のクリスチャンにもノンクリスチャンにも分かるように聖書の言葉が翻訳されることは、有意義なことです」と説明した。
昨年の東日本大震災とその後の原発再稼働の動きについて「神の不在が現代において、あまりにもリアリティがありすぎます。神が存在しているというリアリティはあまりありません。神がいないとする人間の中には、一方において不安が生じて来ます。自分が生きているという存在の根拠そのものが失われてしまいます。その不安を解消するために傲慢な振る舞いが出てきます。今の日本では『お金が神様』となっています。いのちよりもお金が大事になっています。神そのもののリアリティが感じられない中で、『神がいる』といくら言ってみても、そのリアリティは感じられません。人々が聞く耳をもっていません。神ということばそのものに手垢がついて陳腐なものになってしまってはいないでしょうか。かつて持っていた『神』という言葉のリアリティを再現するためには、神に代わる人間存在を肯定する絶対根拠が必要になってきます。そして、神そのものの実在はもはや信じられません。雲の上に神様がいるとは誰も信じられません。そのような中で、神という表象がかつて担っていたリアリティを再現させることは可能であり、それを行うのが本来の神学の役割ではないでしょうか。その意味で、神学は人間学でなければなりません」と述べた。
また質疑応答の中で上村氏は「キリスト教の問題を考えていくと、近代国民国家の問題にも通じるものがあると感じます。 3.11以降、国家の持つ暴力性をこの国は露骨に示しています。はっきり言って戦時下体制にあり、本当の文字通りの『戦争』になるかもしれない、10年後くらいには敗戦国になっているのではないかという心配をしています。国民国家は西洋で生まれましたから、その考え方のベースにキリスト教的な考え方があります。そのためキリスト教に内包される暴力性が、ある意味そのまま国民国家の暴力性に移行しているところがあるといえるのではないでしょうか。その両方の暴力性を明らかにしていくことで、一方でキリスト教、他方で国民国家というものを幾分でもましな形にしていけないかということを考えています」と述べた。
またクリスチャンがノンクリスチャンに宣教するときの問題点として、上村氏は「ノンクリスチャンを十把一絡げに客体化し記号化することで、上から目線の宣教になってしまいます。キリスト教は歴史的に非常に多くの慈善活動を行ってきましたが、かなりの程度に上から目線で偽善的でした。相手を一対一の人間として『私とあなた』という関係の中で対峙するのではなく、『クリスチャンである私』と『何かを必要としているあなた』という記号と記号がしゃべっている欺瞞性が生まれてしまいます。ひとりひとりの相手を生身の人間として対話することが必要です」と指摘した。次回の上村氏の講演は、7月7日に第二回目が行われる予定である。詳細はクリスチャンアカデミー関東活動センターまで。
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上村静(うえむら・しずか)氏 略歴:1966年生まれ。東京大学大学院宗教学宗教史学専攻満期退学。ヘブライ大学で博士号取得。専攻はユダヤ学・聖書学。 著書:『宗教の倒錯』(岩波書店)ほか。
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