6月30日、7月1日の両日にかけて日本キリスト教協議会(NCC)平和・核問題委員会主催の講演会「内部被曝からいのちを守る講演会&シンポジウム」が日比谷コンベンションホール(東京都千代田区)で開催された。同講演会は日本キリスト教協議会エキュメニカル震災対策室(NCC-JEDRO)助成事業の一環として開催された。
NCC平和・核問題委員会集会実行委員会委員長の内藤新吾氏( 日本福音ルーテル稔台教会牧師)は、原子力発電について「組織的な悪の力が働いている。国家的犯罪のレベルを超えて国際的原子力マフィアの犯罪。巨大な悪に対して怒りを忘れてはならない」と述べた。
講演会にはゲストとして物理学者でドイツ放射線防護協会会長のセバスチャン・プフルークバイル博士と、同じく物理学者で欧州放射線リスク委員会(ECRR)委員長のインゲ・シュミッツ・フォイヤーハーケ博士が招かれ、チェルノブイリ原発事故と今回の福島原発事故を照らし合わせた講演が行われた。
プフルークバイル博士は、原子力エネルギー利用に関する世界的な悪に関して、日本への原爆投下後の1953年5月27日に、米国第34代大統領および第二次世界大戦中のヨーロッパ連合軍最高司令官を務めたアイゼンハワーが「核分裂や核融合については、かれら(一般大衆)に真相をあいまいにしておきなさい」と言及していたこと、またチェルノブイリ原発事故後には旧東ドイツの核安全と放射線防護の官公庁報告で「長年の稼働経験も、スリーマイル島やチェルノブイリでの原子力発電所の事故も裏付けるのは、原子力発電所や他の原子力設備が安全に稼働することができる、ということである」との報告されており、故意に原子力発電の危険性について矮小化される言及や報告が戦後継続的になされていたことを伝えた。
さらに昨年9月の英ロンドンで開かれた世界原子力協会の年間総会では、「原子力発電所はいかに安全かを、フクシマの原発事故が証明してくれる」という言及がなされたという。またプフルークバイル博士は、原子力損害賠償紛争審査会委員で大学教授の山下俊一氏が「幸せで微笑んでいる人々のところには、放射能の被害が訪れない。不安な人々の所に訪れる」、「放射能の直接影響があるとは思いません。線量が少なすぎるためです」、「放射能恐怖症です」などの根拠のない発言をしてきたことに対して遺憾の意を表明した。
原子力依存が長くなるほど、再生可能エネルギーへの転換が難しくなる
同氏は、ドイツの詩人ベルトルト・ブレヒトが著書「ガリレイの生涯」の中で「真理を知らない者はただの馬鹿者だ、だが真理を知りながらそれを虚偽と言う者は犯罪人だ」と記していた事を引用し、原発事故の事実を歪曲して伝える姿勢について非難した。
また同氏は1986年から1989年まで東ドイツで開かれた全キリスト教徒大会で「原子力はわれわれの将来のエネルギー供給の基盤であってはならない。われわれはエネルギー供給において脱原発へ向けて努力することが不可欠だと考えている。原子力依存が長くなれば長くなるほど、再生可能エネルギーへ転換する資金を集めるのが難しくなる」との声明が出されていた事を伝えた。
同氏はさらに、科学者の過ちについて、「重大な軍事的そして経済的関心(利益)が、今まで可能だと考えられていたよりもはるかに強く、科学的発言に影響を与えている」と述べ、核エネルギーの利用についてはその最初の頃の軍事的利用の時代から、嘘がつかれており、それもうっかりついた嘘ではなく、システマティックに、計画的に嘘がつかれてきたのだと伝えた。
チェルノブイリ原発事故後、そのことが特にはっきりしてきたという。高名な国際的専門機関が、チェルノブイリ原発事故後にすべての放射線の健康への影響を完全に否定するか、少なくとも疑問視してきたという。
フォイヤーハーケ博士は、専門家の立場から放射線防護に関する勧告を行う民間の国際学術組織国際放射線防護委員会(ICRP)が過去50年にわたって低線量被曝の軽視と否定を行ってきたことについて触れ、「当初ICRPは放射線科医によって設立された委員会から出発したが、当初から関係者(放射線を利用する者)の利益を追求する傾向があった。ある個人や社会の利益のために、患者や国民、仕事で放射線にさらされる人々などに、遺伝性疾患やガンなど、一定の割合で深刻な被害結果をもたらす被曝を強要する枠組みを構築しようとしていた。それが無意識のうちに、原子力時代の国民や放射能関連の仕事の従事者の防護に務める課題を課せられるという、劇的な矛盾に行き着くことになった。この時代の幕開けからICRPが次第に原子力ロビーの手先となりつつあることが、様々な科学的証拠によって批評家たちから指摘されるようになった」と説明した。
国際機関は『低線量であれば問題ない』という方向にもっていこうとしている
同氏は放射線について「どんなに量が少なくても、一本の放射線に細胞が当たっただけでガンが発生する危険性がある。いくら被曝の放射線量が低いからといって、危険がないということは、あり得ない。ICRPもほんの少しの放射線を浴びるだけで偶発的に細胞の突然変異が起こる事を認めている。たくさんの人がいるとして、その人たちに低い線量の放射線を当てた場合、どの人がガンになるかということは前もって言うことはできないが、誰かがガンになる可能性があるという事はできる。放射線を浴びれば、定量でもガンになる危険性があり、量が増える程危険性も高くなる。ICRPもその事は認識している。放射線量を半分にしても、ガンになる人の数は半分にはならない。放射線はこれぐらいなら浴びても大丈夫というしきい値はあり得ない。福島原発事故後、年間100ミリシーベルト以下の被曝量ならば大丈夫であると言う事を耳にしたが、科学者としてそのようなことは絶対に口にはできない。国際組織は『低線量であれば問題ない』という方向にもっていこうとしているが、研究者は低線量でも問題があるという方向で研究していて、いつも議論になり結論が出ない状態になっている」と説明した。
東日本大震災による福島原発事故が生じてから、ドイツのメルケル首相は単独で原子力発電からの脱退を宣言した。ドイツでもこの宣言に対し、原子力発電ロビイストらからはっきりとした抵抗が起こっており、電気料金の高騰で威嚇がなされているという。またドイツでも原子力発電なしの新しいエネルギー供給のコンセプトはできていない状態にあるという。
福島原発事故後、世界中で「年間の被曝線量が100ミリシーベルト以下であれば、全く心配はない」と広めるための数々の発表が行われてきた。チェルノブイリ原発事故後も市民を惑わすために使われた「放射線恐怖症」と言う言葉も福島で再び使われるようになった。倫理観も、元の意味からはかけ離れた形で使われるようになり、住民の生活条件や生活スタイルを放射能汚染に慣れさせていくという目標をもって「倫理観プロジェクト」という研究がチェルノブイリ原発事故後行われていたという。
プフルークバイル博士は、福島でもチェルノブイリ原発事故後と同じようなことが行われている事を指摘し、「このような努力は、核エネルギーのための奉仕と理解を得ることを可能にさせるためであり、原発事故の後であっても『いくつかあざができただけで、無事である』ことが可能だと見せるためのものである。住民の保護や健康については、まったく、あるいはほんの少ししか考えられていない」と述べた。
同氏は、このような経済的・軍事的関心のために虚偽を伝える科学者に対する信頼が失われようとしていることに対し、「科学者は『なぜ、もう誰も自分たちの言うことを信じてくれないのか?』という疑問にまでは、まだたどり着いていない」と述べた。
損害を引き起こした者に、損害を除去する責任がある
同氏は原発事故による環境破壊について、「優先的にその根本原因を撲滅すること、また原因者責任という概念も出てくる。損害を引き起こした者には、損害を除去する責任があるということである。環境毒が健康に被害をもたらしているという重大な懸念があるときには、行動を起こすべきなのだ。(行動を起こさず)ひたすら延々と科学者が研究を続けることは、『犯罪者』が、考え得る限り長い間殺人を続けられることにつながる」と述べ、(事故の責任を負うことのできない)原子力発電を行うというところに根本原因があることを見逃さないようにするべきだと呼び掛けた。
また同氏はドイツの哲学者イマヌエル・カントが「啓蒙」について、「人間が、自己の責任においてとらわれている未熟さから出て行くこと」と定義していることについて触れ、「ここ日本では、今、ある種の啓蒙が始まっているが、『未熟さ』は、ほんの一部分だけ『自己の責任』だった。ヒロシマとナガサキ後の米国政治、メディアへの干渉とメディアの影響、そして原子力ロビイストたちが、何十年にもわたって、この『未熟さ』を狙い定めて育て上げてきたのである。しかし今、カントが言う『自分自身の理性を、他者からの指導なしに使いこなす』事を学ぶことに、喜びを見出すためにチャンスが訪れている」とし、福島の新しい出発に対し、「力の限り皆さんが難しい問題について真剣に考える事を助けなければならない。昨日チェルノブイリで起こって、今日皆さんの身に起っていること(福島原発事故)は、明日には西ヨーロッパで起こるかもしれない。皆が共通に抱えている問題について考え、皆一緒に行動を起こさなければならない」と述べた。
日本とドイツが新しいエネルギー供給の方法を先陣を切って示していくべき
また同氏は日本とドイツが世界の今後の核エネルギー使用の決定について、重要な役割を担っていると指摘し、「日本とドイツの市民が、核エネルギーの利用についてどう思っているか、本当に大きな声を上げたなら、そして両政府が国民の望んでいることを聞いてくれたなら、日本とドイツは、新しいエネルギー供給の方法を構築するための、技術的な可能性を持っているだろう。日本とドイツは、全く新しいエネルギー供給が本当に可能であると、先陣を切ってやってみせることができるだろう。それと同時に、核の武装解除の考えがもっと推し進められれば、『緊急の場合には、すぐに独自の核爆弾が造れるようにしておくために原子力発電所を稼働させておく』という『影の考え』が消滅することで、パラダイスに到達する。しかし日本もドイツも、このような『影の考え』にまったく免疫が出来ているわけではない事を知っている」と述べ、「私たちには、まだやることがたくさんあります。みんなで一緒に行動していきましょう。他に選択肢はないのですから」と呼びかけた。
次ページはこちら「最終責任が持てる能力がなければ原発は動かせない-双葉町町長」
クリスチャントゥデイからのお願い
皆様のおかげで、クリスチャントゥデイは月間30~40万ページビュー(閲覧数)と、日本で最も多くの方に読まれるキリスト教オンラインメディアとして成長することができました。この日々の活動を支え、より充実した報道を実現するため、月額1000円からのサポーターを募集しています。お申し込みいただいた方には、もれなく全員に聖句をあしらったオリジナルエコバッグをプレゼントします。お支払いはクレジット決済で可能です。クレジットカード以外のお支払い方法、サポーターについての詳細はこちらをご覧ください。
人気記事ランキング
-
日本人に寄り添う福音宣教の扉(216)365日24時間、充実した仕事の中 広田信也
-
世界最高齢者は116歳、サッカー好きのブラジル人修道女 長生きの秘訣は?
-
花嫁(20)おひなさま 星野ひかり
-
国家を高める正義 穂森幸一
-
ミャンマーのカトリック教会、大聖堂指定から2週間たたずに空爆直撃 使用不可能に
-
神学者トマス・アクィナスの顔、法医学の手法で復元 死因にも新説
-
ウクライナ侵攻3年、欧州福音同盟が声明 現状「嘆く」が「希望」持ち続ける
-
マイナスをプラスに変える力 菅野直基
-
ワールドミッションレポート(2月23日):ポーランド 険しい地を平らに(1)
-
若者の77%がイエスについて知りたいと思っている 米世論調査
-
「今、私はクリスチャンです」 ウィキペディア共同創設者がキリスト教に回心
-
神学者トマス・アクィナスの顔、法医学の手法で復元 死因にも新説
-
若者の77%がイエスについて知りたいと思っている 米世論調査
-
国内最高齢の女性映画監督、山田火砂子さん死去 日本人キリスト者の半生描いた作品多数
-
山梨英和大学、パワハラで学長ら2人を「降任」の懲戒処分
-
世界最高齢者は116歳、サッカー好きのブラジル人修道女 長生きの秘訣は?
-
ミャンマーのカトリック教会、大聖堂指定から2週間たたずに空爆直撃 使用不可能に
-
トランプ米大統領、「反キリスト教的偏見」根絶を目指すタスクフォースなど創設
-
花嫁(20)おひなさま 星野ひかり
-
保育の再発見(27)この30年をどう過ごしてきたか
-
「今、私はクリスチャンです」 ウィキペディア共同創設者がキリスト教に回心
-
「こんな悲惨なミャンマーを見たことはない」 政変から4年、ヤンゴン大司教が来日会見
-
国内最高齢の女性映画監督、山田火砂子さん死去 日本人キリスト者の半生描いた作品多数
-
トランプ米大統領、「反キリスト教的偏見」根絶を目指すタスクフォースなど創設
-
後藤健二さん没後10年、追悼イベントで長女が映像メッセージ 「誇りに思っている」
-
「苦しみ」と「苦しみ」の解決(1)「苦しみ」の原因 三谷和司
-
説教でトランプ米大統領に不法移民らへの「慈悲」求めた聖公会主教、説教の意図語る
-
山梨英和大学、パワハラで学長ら2人を「降任」の懲戒処分
-
神学者トマス・アクィナスの顔、法医学の手法で復元 死因にも新説
-
「新たなケア」と「限界意識のスピリチュアリティー」 宗教学者の島薗進氏が講演