22日午前11時より衆議院第一議員会館第一会議室にて売買春問題ととりくむ会事務局長高橋喜久江氏(日本キリスト教婦人矯風会)主催の売買春問題に関する講演会・意見交流会が開催された。
講演では県立広島大学保険社会福祉学部の若尾典子教授が、「人権としての性−女性の安全保障を考える」と題し、日本の売買春問題に関する歴史的経緯や日本における売買春問題の国際的位置づけなどについて分かり易く説明した。
その後、共産党参議院議員吉川春子議員、紙とも子議員、社民党党首福島みずほ参議院議員、自民党衆議院議員阿部俊子議員らが講演の内容に関する各政党、個人の意見を述べ、その後参加者らがそれぞれの所属する団体、職務において、売買春問題にとりくんできた経緯、これからの対策法などの意見を交流しあった。
婦人相談員、婦人保護施設、シェルター、女性団体・活動グループなどで長年活躍する活動家らが今回の意見交流会でそれぞれの長年のとりくみに基づいた活発な意見を出し、売買春、女性の人権問題に対する見解を共有する貴重な機会となった。
23日で1956年5月23日に日本で売春防止法が制定されてから50年が経過することになる。今回の講演会・意見交流会では、売春防止法制定50周年を迎えて、この法律の意義、問題点、今後の改善点などの意見を分かち合った。
若尾教授は現状の売春防止法では、一方的に売春する側が罰せられるばかりで、「買う側」が罰せられない仕組みになっていること、売春防止法の条文は売春女性の人権を守るために制定されたものであるのにもかかわらず、読んでいくと売春女性が人権を侵害されているのにもかかわらず、彼女らが性風俗を乱していると非難している内容になっており、すっきりしない感じが残ることを指摘した。
また日本は国際社会においては性風俗大国として未だ有名であるという不名誉な事実についても触れた。2005年度米国務省人身売買報告書では、日本の評価はG8中ロシアに次いで低い評価を下されている。売春防止法の制定で、性交を伴う性風俗は全面的に禁止されたが、この法律の問題点は「性交類似行為」は処罰の対象外にされてしまっていることである。その結果、売買春防止法で処罰の対象となるべき当時の業者らはこの法律の「抜け穴」を見つけて「性交類似行為」を行う性風俗特殊営業を行うことになり、これが今まで黙認され続け、新宿歌舞伎町などで延々と性産業が未だに行われ続け、その結果日本の売買春に対する取り組みは国際的に低評価を受けるに至っている。また日本のデジタル技術、写真技術が卓越していることからもポルノ産業を世界的に扇動する役割を担ってしまうという皮肉もあるという。
また若尾教授は研究者らによって90年代にメディアに取り上げられるようになった「セックスワーク」という言葉の流行に大きな懸念を示した。それまでは売春を行う女性は、自分の行っている行為に対し罪深さが生じ、なんと他に表現すればいいかわからなかったが、セックスワークという言葉の流行で、売春という行為を一職業のように見なすアイデンティティができてしまった。またそれと同時代に「援助交際」という言葉もはやりだし、この二つの言葉の流行によってよけいに性風俗を広めてしまったという。
自らも研究者である若尾教授は、研究者とは「うしろから来て社会を分析する人」であり、自分の研究が有名になるためにやたらにメディアに面白いことを言ってみる、上手くいけばラッキー、というような軽率な行動を取るべきではない、自らの研究がどのように社会に影響するか良く考えて発言すべき、と警告した。
若尾教授によると、そもそも売春、性的行為を換金するという契約行為自体が問題であるという。人には性的自己決定権があり、お金で体を売り渡すようなことはあってはならない。体を金で買うという行為はすなわち、金を支払った側が相手を奴隷化することになる。たとえ性的行為のためにお金を支払ったからといって支払った相手の意に反する行為を行うことは即レイプという殺人に次ぐ犯罪行為になるという認識を買う側ははっきりと認識しなければならないという。
意見交流会では、現役時代授業で性教育に積極的にとりくんできた元高等学校家庭科教諭が、性教育は保健の授業のみで行い、家庭科の授業では行うべきではないと文部省が定めたことに対する遺憾の意を述べた。内面の意識を改善することから外的行為にも改善が見られることにつながる。教育界における性教育の向上の必要性を訴えた。
売買春問題は日本の裏社会で未だに日常的に生じているにもかかわらず、性の問題を公的に話すのは抵抗があるためなかなか問題が表面化されにくい。今回の意見交流会では、与野党の枠を超えて多くの著名女性議員らが売買春問題についての政府の取り組みについて意見を述べた。国会でも男性議員に対して売買春問題を提示しても、なかなか問題の対策がとられにくい。これには、国会の男性議員の問題意識の認識の低さが挙げられる。今回のような場所で意見を述べる女性と、実際に被害に遭っている女性の状況はあまりに異なっている。現代社会において政界に進出したりビジネス界でキャリアウーマンとして活躍、学会で研究者として活躍する女性がいる一方、その裏では未だに想像を絶するドメスティックバイオレンスに遭い、母子共に夫から逃げ回っている女性、借金返済のために売春を行い陰で苦しむ多くの力弱い女性たちが存在しているという。
現代社会ではこのような女性の「二極化」が激しいといえるにもかかわらず、国会では活躍する女性にばかり焦点が当てられ、闇に隠された弱き大勢の女性が日本に存在することに注視しない傾向にあると、ある女性議員は指摘した。
集会の最後には「売春防止法50年を問う」と題する声明を読み上げ、集会参加者一同で声明文に賛同し拍手をした。
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声明文全文
1956年に成立した売春防止法は長年つづいた公娼制度を否定した画期的な法律といわれたが、50年を経たいま世相の変化に対応せず、危機に瀕しているといわざるをえない。
立法作業当時から実質的に女性に重い片罰制は問題になっていたが、その後に批准した女子差別撤廃条約の精神に矛盾している。
政府は、せっかく売春防止法を成立させ、その後に人身売買および他人の売春からの搾取の禁止に関する条約を批准しながら、「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」により、性風俗特殊営業を認め、都道府県条例によって営業地域を定め、文字通り公認の紅燈街・買春街を出現させているのは法体系の矛盾というべきである。そこには日本女性のみならず、来日外国人女性が性売買をさせられているが保護の手が差し伸べられていない。人身売買禁止を名実ともに徹底させなければならない。
売春防止法第四章保護更正により婦人保護事業が推進されたことは前進であったが、現状は必ずしも満足すべきものではない。たび重なる「行政改革」で切り捨ての対象にあがることも現状の反映であろう。国際化の流れのなかで国籍を問わず支援を必要とする女性・母子の人権確立のために現行制度を拡充強化することが必要である。
私たちは抜本的な法改正・行政改革をめざし、女性の人権確立、ひいては男性の人権確立のために主権者として努力し、社会・国会・政府・行政に改革をうったえ、力を合わせてその実をかちとっていきたい。
2006年5月23日 売春防止50年を問う いまこそ女性の人権確立を!集会参加者一同