日本福音連盟(JEF、理事長=峯野龍弘牧師)が14日、浅草橋教会(東京都台東区、ウェスレアン・ホーリネス教団)で第39回総会を開催した。同総会は、同連盟東京大会のセミナーや聖会を挟んで15日正午まで行われた。
14日のセミナーでは、堀肇氏(日本伝道福音教団・鶴瀬恵みキリスト教会牧師)が「現代におけるパストラルケア 〜牧会者へのパストラルケアを中心に〜」のテーマで、信徒や牧会者が直面する教会生活や牧会生活の疲れ、牧会者へのパストラルケアとカウンセリングの必要性について講演した。
堀氏は、心理学のカウンセリングでも触れることができない人間の霊や魂の存在と、そこに働きかけるパストラルケアの重要性について語った。教会に来る人たちのケアを準備しながら、指導者が霊的な危機に直面する現実がある。魂の喜びであるはずの信仰生活が負担として感じられ、疲れが生じることがある。心身症などに発展するケースもあるという。牧師にも疲労して奉仕ができなくなる人がいるという現実はなんとしてもケアしなければならない。
とあるカウンセリング研究所の報告では、ある時期の来談者280人のうち30人が教会の牧師や宣教師、牧師夫人だったという。これは氷山の一角であり、多くの人が孤独の中で戦い、疲れていると述べた。牧会者に対するケアは機能しにくく、教団のシステムがあるところも少ないため、未開拓分野で今後の課題とした。
堀氏は、生活の中で違和感を感じたときは実際に異常である場合が多く、それを感じる感覚を大切にしてほしいと述べた。牧会者が疲労を感じる原因として、牧会に関する相対評価や人間関係を挙げた。各牧会の条件は異なり、受洗者数や礼拝出席者などの数字で相対評価することは避けるべきと指摘し、神様は一人の牧会者に固有の使命を与えられて教会を委託していると強調した。
自分に対して高い理想像を持っている人や、責任感が強く欲求を無意識に押さえ込んでしまう人は、思わぬところで感情が爆発してしまうことがあるという。信仰が競争社会の中で成功につながることを暗に期待するご利益宗教のような信仰、実績主義や成功主義で人間の価値観が刷り込まれたような状態は危険と訴えた。
人間には知性という上層の部分があり、その下に神学や信仰が対象とする魂や霊、心と呼ばれる部分があるという。最近になって世界保健機関(WHO)等もスピリチュアルケアの重要性を指摘し始めたが、聖書には魂のケアの歴史が既に記録されており、それを土台としてカウンセリングと統合させなければならないと述べた。
教会は体であり、有機的な繋がりがあるため、一人の人に問題が出たとき、個人の人間関係と同時にシステムにおける権力関係といった全体の歪みや病巣を修正しなければならない。教会が知性で聖書を読むあまり、イエスとの魂の交わりを忘れていないか、魂のケアの場を提供しているかを再確認し、「ありのままの姿で落ち着く世界」を築きたい、と堀氏は語った。
堀氏は、魂のケアとは父なる神との愛の体験だと述べた。この本質的で無条件な愛を認識し信じるには時間を要するが、この愛に出会う旅が人生だという。この愛の神様を、正しいことは正しいと教えながらも、自分のようなつまらない人間でも愛してくれる、そういう人との出会いや愛の交わりの中で「見る」ようになる。本当に愛するときにこそ本質的なケアが自然と発生していくと堀氏は述べた。知性で理解できないこの神様の愛を実践している人が教会に必要とされていると訴えた。
最後に堀氏は、十字架上で死なれた主イエスの復活について語り、「傷跡が無ければ復活は分からない。傷によって、主イエスに癒され、イエス様が共に歩んでくださっていると感じることができる」と述べた。牧会者とは傷ついた人たちのことであり、傷によって、そこから主イエスのやさしさが溢れ出る癒し人となるのだと語った。
堀肇牧師=日本伝道福音教団・鶴瀬恵みキリスト教会牧師、ルーテル学院大学講師、NHK学園聖書講座講師。臨床パストラル・カウンセラーとして家族相談、教育相談に携わる。日本家族心理学会会員。
高柳泉