【CJC=東京】マルチン・ルターの教義の核心である信仰義認は、「反ユダヤ」に結びつくとして、公式修正が必要だ、とオランダのユダヤ系神学者ルネ・シュス氏が問題提起している。
義認教義は、罪人の義を宣言する神の行いであり、救いはイエスを信じることのみで達成されるというもので、いわゆる「宗教改革」の根幹をなしている。「この義認教義と呼ばれる堅固な岩こそキリスト教教義全体の中核」とするルターの主張が「反ユダヤ」につながる、という見方は、プロテスタント教会として無視出来ない。世界教会協議会(WCC)系のENI通信が取り上げたのも、そこに注目したもののようだ。
ルターはカトリック教会の反ユダヤ主義に抗議していたが、ユダヤ人がキリスト教に改宗しないことに失望したルターは、1543年に反ユダヤ主義のパンフレット『ユダヤ人と彼らの嘘について』を発表した。シュス氏の『ルターの神学的証言。ユダヤ人とその嘘について』の初刷りは2006年に発行されたが、それにはルターの1543年の著作のオランダ語訳も含まれている。
シュス氏は、ルターは晩年だけでなく生涯を通じて反ユダヤだった、と言い、さらにルターのユダヤ人観とナチス・ドイツのホロコーストが直結していると言う。「わたしの目的は、ルターの反ユダヤ文書をお蔵入りさせ、わたしたちユダヤ人を脅かさないようなキリスト教の自己理解に立った教義の展開を求めること」と、6月に発売された著書の第2刷で述べている。
ユダヤ系の父とルーテル派信徒の母を持つシュス氏はオランダ改革教会の隠退牧師。現役時代は1984年から99年に掛けて首都アムステルダム市内と近郊の教会に仕えた。99年にキリスト教を離れ、ユダヤ教徒になった。オランダ改革教会はプロテスタント教会に統合した3教派の中では最大。
1984年、ルーテル世界連盟(LWF)は、正式にルターの反ユダヤ文書を放棄した。これらの著作がナチス・ドイツに利用されたことが放棄の遠因になっている。
ただシュス氏は、ルターの著作がナチスによって誤用されたとするLWFの見解に対しては、ルターの著作は彼の意図をその通りに表わしたものだ、と主張する。
2008年、オランダ・プロテスタント教会内のルーテル派大会は、シュス氏との関係を断った。ルーテル派のヨープ・ブンデルマーカー教授の著作を痛烈に批判したのを受けてのこと。プロテスタント教会としてはルーテル派の動きを支持した。
しかし、同年、シュス氏は、プロテスタント教会と密接な関係にあるイスラエル支持組織『協会とイスラエルへの訴え』の年次会議の基調講演者を務めてもいる。アムステルダムで開催された会議の主題は「ルターと彼の嘘=キリスト教神学の核心にある反ユダヤ主義」だった。