数年前から日本の自殺率は世界1位と言われている。先週も自殺を考えたことのある子どもが増えているというニュースがあった。これらは現代社会の病みがいかに深刻であるかを端的に示している。極端な言い方だが、親が子を殺し、子が親を殺すような時代とも言われるほど、現代人の心は荒んでいる。今の日本で人々を苦しめるものは、貧困や物の乏しさのような肉的な困窮よりも根本的な問題、心の中の深い不安、絶望、虚無感といった、すなわち霊的な困窮であると思われる。
心の病を持つ現代人。表面的な世界は、平和が保たれ、安らかな社会である一方、心の奥では言葉では言い表せないような不安と乏しさに悩む人々がそこにいる。それを覆い隠すかのように愛の言葉は氾濫し、スローガンのように至るところで聞こえてくる。しかしながら、愛が溢れる世界で本当の愛を探すことができないもどかしさは心の闇として、人々の中に深く刻まれている。まるで洪水の中で飲み水が無い人々のように、愛の欠乏ともいうべき飢饉の中で人の霊は闇にとじこもり、冷え切ってしまったのではないだろうか。現代人が満たすべきものは、物質的な問題以前の、霊の渇きと飢えである。
「イエスは町や村を残らず回って、会堂で教え、御国の福音を宣べ伝え、ありとあらゆる病気や患いをいやされた。また、群衆が飼い主のいない羊のように弱り果て、打ちひしがれているのを見て、深く憐れまれた。」(マタイ9:35−36)
羊飼いのいない羊とは、現代社会に生きる、まだイエスを知らない多くの日本人の姿ではないだろうか。精神的な放浪をする多くの人々、彼らの霊の中にある苦しみと絶望、孤独に目を向ける必要がある。
この時代を救うことができるもの、それは主イエスの福音だ。主は、この時代の苦痛を無視せずに、罪の多い私たちのところに来られた。この時代が必要としている教会は、イエスがなさったこと(教えること、伝えること、癒し)の3つの奉仕を行う教会ではないだろうか。まだ主を知らない多くの人々に出会い、その心の深みに漕ぎ出て、聖書の言葉の網を降ろすことのできる漁師たちのような働き手が必要な時代だ。弱り果て打ちひしがれている人々に、主の福音を正しく教え、伝え、癒す教会が必要である。
「わたしは良い羊飼いである。良い羊飼いは羊のために命を捨てる。羊飼いでなく、自分の羊を持たない雇い人は、狼が来るのを見ると、羊を置き去りにして逃げる。狼は羊を奪い、また追い散らす。」(ヨハネ10:10−11)
良い羊飼いイエス、この方の姿は、飼い葉おけが象徴するイエスの誕生から十字架の死にいたるまで人生の全てが、我々への愛と犠牲で満ちていた。罪深き卑しい現実に来られた神の子イエスの十字架と復活の便り。ご自身を卑しくされ、命まで下さった救い主、その愛の勝利の知らせが福音ではないだろうか。
教会と牧会者1人ひとりが、イエスのような良い羊飼いの役目を果たすとき、人々は大きな働きと奇跡を体験できるであろう。良い羊飼いについてイエスは簡単に説明された。良い羊飼いは羊のために命を捨てるのだと。我々が羊のために命を捨てる愛を実践するなら、その数がわずかであるとしても、やがてこの冷たい社会は変わって、人々は癒され、この地に暖かい福音の風が吹き、神の民が増え広がるだろう。
この時代が必要としているのは、福音だ。昔も今も求められる教会の姿は、華やかでにぎやかな社会の裏側の、見えない人々の心の渇きに注目する教会、氾濫する愛の言葉のなかで真の愛を伝えることができる教会、積極的に罪が溢れる現実に介入していく教会、霊的な飢えと渇きを満たす教会だ。この確信を持ち、福音を大胆に人々の前で教え、伝え、癒す教会、キリストの共同体を目指していくべきではないだろうか。
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