【CJC=東京】教皇ベネディクト十六世は3月17日、カメルーンとアンゴラに第11回の海外司牧訪問に出発したが、機中で記者団に対し「コンドームの配布で問題を克服することは出来ない」と語った。エイズを引き起こすHIVの感染予防対策としての避妊具普及を認めず、「禁欲」を説くカトリック教会の方針を改めて強調したもの。
教皇がコンドームという言葉を使ったのは2005年の就任以来初めて。教皇はこれまで「避妊具」という言葉を使っていたが、世界で最多のHIV感染者がいるアフリカ歴訪に際し、問題を明確にするため使ったとみられる。
アフリカは世界のエイズウイルス(HIV)感染者の67%が集中し、国連やNGOが有効なエイズ対策としてコンドームの無料配布を続けているだけに、カトリック信者が急増している地域での教皇発言に、エイズ対策に取り組む国際機関や各国政府、一部カトリック教会から「非科学的」「人命軽視」との批判が相次いでいる。
世界保健機関(WHO)のエイズ問題責任者は「不特定多数との性交渉に結び付くとの科学的証拠はない」と反論した。国連合同エイズ計画(UNAIDS)は「HIV感染予防にコンドームは欠かせない」との声明を発表。スペイン政府も、アフリカ諸国に対する「コンドーム100万個」支援を突然発表し、教皇に対する“不服”を示した。
仏外務省は「ベネディクト十六世の発言がもたらす結果に重大な関心を持っている」とし、公衆衛生施策と人命保護の義務に対する脅威だ、と指摘した。
教皇の出身国ドイツのウラ・シュミット保健相は「貧困層の家族計画にコンドーム使用も認めるべきであり、それ以外の方法は無責任だ」と声明で述べている。
カメルーンで医療問題の改善を提言する団体MOCPATの広報担当アラン・フォーグ氏はヤウンデで、81歳の教皇は現代世界からかい離しているとして「教皇は本当に21世紀に生きているのだろうか」と疑問を呈し、「100人のうち99人のカトリック教徒はコンドームを使用している。『肉体は弱し』ということを知るべきだ」と語った。
ドイツのカトリック教会からも、コンドーム使用を認めるべきだとの意見が出ている。
バチカン(ローマ教皇庁)が、教皇の機上発言を後で修正していたことが分かり、それも問題を複雑にした。
エイズに関して教皇は「コンドームの配布で問題を克服することは出来ない。反対に問題を増やすだけだ」としていたのを「コンドームの配布で問題を解決は出来ない。反対に問題を増やす危険がある」となったのだ。他にも、援助計画には『魂』や霊的援助が必要だということを説明して、教皇がエイズ問題はカネだけでは解決出来ないだろう、と発言したのが、バチカンの公式資料では『カネ』が『広告スローガン』に変えられている。
バチカンのフェデリコ・ロンバルディ報道事務所長は、これらの修正は国務省が行ったとしている。録音テープは正常に文書化され、イタリア語として意味が通じるように少々編集された、と言う。しかし教皇発言の意味を修正はされたとは思わない、と語った。同所長は実態を調査し、必要なら訂正する、と述べている。