私たちは、世の中の情報を自分の目で見て、自分の頭で判断していると考えていますが、実はそうではありません。それは自分以外の何か別の情報に依存した上での判断なのです。例えば、私たちが信じて疑っていない本能寺の変、関東大震災、原爆投下などの歴史上の出来事のどれ一つとして、私たちは実際に見てもいなければ、体験もしていません。ですがその出来事を信じているのは、それを証明するに足りる文献があるからです。
無論、文献があるものは何でも信じていいということにはなりません。ある調査によると、現代社会において、私たちが1カ月間にフェイクニュースに接触する可能性は約75%だそうです。ですから、その情報が信じるに足り得るかを見分けるためには、幾つか条件があるのです。それは・・・
1)量:それを証明できるだけの多岐にわたる証拠があるか
2)時:それが実際に起きた時と時代が照合されているか
3)真正さ:証拠の出どころは確かで信頼に足りるものか
4)正確さ:証拠となる記録や証言の間に矛盾はないか
こうした基準を帰納法によって検証することで初めて、私たちはそれを事実として認めることができます。聖書についても同じです。最初はキリスト教に対して非常に否定的だった私がクリスチャンになったきっかけの一つは、その情報元である聖書の歴史的・文献的信ぴょう性を肯定せざるを得なかったからです。こうした、聖書が提供している情報のことを英語でグッドニュースといいますが、これこそ、今の日本人に最も必要な情報です。
しかしながら、世間で流されているニュースの実に8割はバッドニュースです。ネットやテレビでは毎日、目を背けたくなるような痛ましい事件や、権力者や有名人の不正・失敗などを暴いたニュースばかりが横行しています。世の中全体が物事を批判し、人を引き下げるような風潮に染まっているのです。
テレビにしてもネットにしても、視聴率と収入の高さは比例します。ですから、視聴回数を増やすためには、少しでも人を集める必要があるのですが、人はどんな情報に集まりやすいのでしょうか。それがネガティブな情報です。そういった内容の方が、より多くの人たちの興味を引くのです。ユーチューブのサムネイルコピーなどを見ればよく分かるように、視聴回数を上げるために、あえて否定的なネガティブアプローチを使う。現代メディアのほとんどが、こうした人間の心理を悪用してお金を稼ぐという悪どい心理戦略を行っています。
ですから私たちとしては、目的に応じた情報検索と正しく適切な情報の取捨選択を心掛ける必要があります。最近、メディアリテラシーという言葉をよく聞くようになりましたが、それはメディアからの情報をうのみにするのではなく、主体的に読み解く力のことをいいます。なぜなら、メディアから発信されている情報は、必ず誰かがある意図を持って編集し、そこには必ず作り手の思想や価値観が反映されているからです。その意味において日本は特に、公正な情報が非常に得にくい環境下にあります。
米国には実に1700以上のテレビ局が存在し、新聞社も、テレビも、ネットも、それぞれ異なった立場で独自の情報を発信しています。ところが、日本の5つの地上キー局は全て新聞社の子会社という、欧米社会ではあり得ない状況になっています(※)。しかも、日本の新聞社の株式は、譲渡できない仕組みになっており、それは本来、日本政府を監視し、国民を守るために必要な情報を発信する立場にあるメディアが、政府の特別な保護下で守られていることを意味します。つまり、日本政府とメディア、そして彼らのスポンサーである大手企業は、既得権益の三重構造になっており、日本の地上波に公正な情報発信を望むことはほぼできない状態にあるのです。
「何よりも大切にすべきは、ただ生きるのでなく、より良く生きることだ」とソクラテス(※2)は言いました。より良く生きるためには、私たちの生活における物質的側面と精神的側面、そして環境的側面の3つを改善させる必要があります。その意味において、情報の取捨選択は、私たちの環境管理において必要不可欠な急務です。そこで、私たちの周囲に氾濫している情報には、以下の3つがあることを知っておいてください。それは・・・
1)自分が生活するために必要な情報
2)自分を引き上げ、成長させる情報
3)自分の成長を阻み、引き下げる情報です。
例えば、ユーチューブという玉石混交の世界では、サムネイルのタイトルを見て興味本位にすぐ開けるのではなく、その情報がこの3つのうちのどれに相当するのかを一度考えてから、自分を引き下げると思われるような情報には手を出さないように心掛けるべきです。自分に残されている貴重な時間(命)を1分たりとも無駄に費やしてはいけません。私たちに与えられている一日一日、一時間一時間、その一瞬一瞬が、ただ一度限りしかないという現実が、私たちの人生に大きな意味と責任を与えているのです。
知恵のない者ではなく、知恵のある者として、どのように歩んでいるか、よく注意しなさい。時をよく用いなさい。今は悪い時代だからです。(エフェソの信徒への手紙5章15、16節)
※ 欧米社会では言論の自由を保障するために、特定企業が多数のメディアを傘下にするクロスオーナーシップは厳しく規制されている。国境なき記者団が発表した「世界報道自由度ランキング(2023)」で、日本は世界68位(G7で最下位)。
※2 ソクラテス(BC470〜399)。西洋哲学の基礎を築いた古代ギリシアの哲学者。
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