ドイツの受賞歴のあるキリスト教学校がこのほど、地元の教育当局の命令によって強制的に閉鎖された。同校を巡る措置については、国際的なキリスト教権利擁護団体が5月、教育の自由を侵害するものだとして欧州人権裁判所(ECHR)に提訴しており、現在係争中となっている。
提訴したキリスト教法曹団体「ADFインターナショナル」(英語)によると、閉鎖されたのはドイツの「分散型学習協会」が運営する同国南部バーデン・ビュルテンベルク州ライヒンゲンにある「ディートリヒ・ボンヘッファー国際学校」(DBIS)。DBISは、学校学習と家庭学習を織り交ぜた教育を提供する「ハイブリッドスクール」で、普段の学校教育ではカバーしきれない内容をサポートする「補習授業校」として、同協会が9年にわたり運営してきた。しかし、地元の教育当局が年度中の閉鎖を命令。ドイツの学校は7月が年度終わりで、DBISは現在、新入生を迎えられない状況だという。
DBISを閉鎖に追い込む動きは、同協会が2014年、他のハイブリッドスクール2校の認可について申請をし、不認可となった後から始まった。3年間にわたる訴えが無視された後、同協会は17年、行政の不作為を理由に、ドイツ国内の裁判所に提訴。19年、21年、22年の3回の裁判を経て、ドイツ連邦憲法裁判所は昨年12月、同協会の訴えを最終的に退けた。そのため、ADFインターナショナルが5月、「学校を開校・運営できないことに対する教育の自由の甚だしい侵害」を理由に、ECHRに提訴することになった。
地元の教育当局は9月、DBISの弁護士に宛てた書簡(ドイツ語)で「(学校運営)禁止の即時執行を命じる」と書き送り、手数料として600ユーロ(約9万6千円)の支払いも命じた。書簡には次のように書かれていた。
「禁止は(中略)、州の教育上の委任を保護するためのものである。現在の閉鎖状態の学校では、州の教育上の委任は(中略)完全に損なわれてしまうだろう」
教育当局はまた、「無許可校の広告」だとしてDBISのホームページの明け渡しも命じた。
DBISとその弁護団は、ドイツはホームスクーリングの禁止やその他の教育の制限により、国内法にも国際法にも違反していると主張している。
DBISの校長で、分散型学習協会の代表でもあるジョナサン・エルツ氏は、声明で次のように述べた。
「子どもたちには一流の教育を受ける権利があります。私たちの学校では、個々の学習ニーズを満たし、生徒が活躍できるような教育を家庭に提供することができていました。私たちの生徒と教師が学校コミュニティーを去らなければならなかったことを、深く悲しんでいます」
ADFインターナショナルの欧州地域権利擁護責任者を務め、DBISの弁護人を務めるドイツ人弁護士のフェリックス・ボエルマン氏も、エルツ氏の意見に賛同し、声明で次のように述べた。
「親は子どもの教育の第一の権威です。ハイブリッドスクーリングのような革新的なアプローチを取り入れることを含め、親が自分の子どもにとって最善の教育を選択する権利を持つことは、国際人権法に明記されています」
その上で、ドイツの教育制度は世界で最も制限の多いものの一つであるとし、「苦しむのは、長年にわたり親しまれてきた学校が閉鎖を余儀なくされた子どもたちと、その家族です」と述べた。
エルツ、ボエルマンの両氏は、ECHRが今回の訴訟をドイツの教育の在り方を改革し、保護者の権利を擁護する機会として受け止めてくれることへの期待を表明した。
DBISは、ドイツの神学者ディートリヒ・ボンヘッファーにちなんで命名された。ボンヘッファーは、1944年7月20日のアドルフ・ヒトラー暗殺未遂事件の責任を問われ、翌45年に処刑されたことで知られている。
ボンヘッファーの母親は、子どもたちが幼い頃、ドイツの公立学校に通わせることを拒否し、代わりに自分で教育することを選んだ。ドイツでは1920年に公立学校への通学が義務化され、ヒトラーは最終的に教会が運営する小学校を廃止した経緯がある。