キリスト教の隣人愛を理念に掲げる社会福祉法人賛育会(小堀洋志理事長)は9月28日、親が育てられない乳幼児を匿名で預かる「赤ちゃんポスト」を、運営する賛育会病院(東京都墨田区、高本真一院長)で2024度から始めることを発表した。実現すれば、国内の医療機関としては、2007年に「こうのとりのゆりかご」の名称で始めた、同じくキリスト教系の慈恵病院(熊本市)に続き2例目となる。
赤ちゃんポスト、内密出産、妊娠相談の3本柱
発表によると、賛育会が新たに始めるのは「⾚ちゃんのいのちを守るプロジェクト」。赤ちゃんポストに当たる「⾚ちゃんの保護」のほか、「内密出産」「妊娠SOS相談」を合わせた3つが柱となる。
内密出産は、事情を抱えた妊婦が病院にのみ身元を明かして出産する制度で、慈恵病院が19年に導入を表明。昨年2月に初事例を報告していた。実現すれば、内密出産も国内2例目となる。
妊娠SOS相談は、悩みを抱える妊婦の相談事業。赤ちゃんの保護と内密出産は、産科や婦人科、小児科のある賛育会病院が業務を担い、妊婦SOS相談は賛育会本部が業務を担う。
賛育会は、「昨今、予期しない妊娠や孤⽴出産の悩みを抱える⼥性の増加や、嬰児(えいじ)の遺棄など痛ましい事件が発⽣しています。その背景には貧困や虐待・家庭崩壊、ジェンダーなどさまざまな社会課題も⼤きく影響しています」とし、これらの課題解決の一助となることを目指して、プロジェクトを開始することに決めたと説明している。
プロジェクト実現には行政支援が不可欠
一方、プロジェクトは⾏政の支援がなければ実現できないとし、これまで関係する各行政部署に説明をしてきたという。今後も開始に向けて粛々と準備を継続していくとしている。
賛育会がプロジェクトの準備を進めていることは、時事通信などが同日、関係者への取材で明らかになったとして報道。その後、新聞やテレビが次々に報じた。
これらの報道を受け、賛育会は29日、「プロジェクトの開始を⽬指し準備しているところですが、詳細についてはいまだ皆様に公表できるところまでは⾄っておりません」などとするコメントを発表。そのような中での報道に「法⼈としては⼤変当惑しております」とした上で、詳細が決定し、公表できる段階になればホームページで報告するとしている。
29日には報道を受け、東京都の小池百合子知事や加藤鮎子こども政策担当相も記者会見で賛育会のプロジェクトについて見解を述べるなどしていた。
東大YMCA有志が設立、100年以上の歴史
賛育会は、東京大学学生キリスト教青年会(東大YMCA)の有志が1918年、キリスト教の隣人愛に基づいた⺟⼦の保護・保健・医療を⽬的として設立。現在は賛育会病院のほか、東京、長野、静岡の3都県で、複数の病院や高齢者福祉施設、保育園などを運営している。
賛育会病院は、助産師の分娩支援による自宅出産が一般的だった当時、国内初の一般市民向け産院として誕生。現在は新生児集中治療室(NICU)を併設した周産期医療を担う専門施設「東京都地域周産期母子医療センター」に認定されており、墨田・江東・江戸川区エリアでは、年間分娩件数が最も多い病院となっている。