神戸国際支縁機構代表で牧師の岩村義雄氏と、同機構の海外部門「カヨ子基金」代表の佐々木美和氏が8月上旬、10年以上続く内戦に加え、2月に発生した地震で甚大な被害を受けたシリア北部の都市アレッポを訪れた。
カヨ子基金は5年前に、孤児の家「カヨコ・チルドレン・ホーム」をアレッポに開設。しかし、現在は内戦による戦闘や地震で跡形もなくなってしまったという。シリア正教会のアレッポ大主教ボウトロス・カッシスと話し合ったところ、同教会が所有する約9ヘクタールの土地に、70人近い孤児たちが暮らせる施設を建設することになった。カヨ子基金が日本で寄付を募り集めた100万円の救援金は、少なくとも800万円を要するこの新しい施設の建設に充てることにした。
カヨコ・チルドレン・ホームはこれまで、現地で出会った家具店を経営するシリア正教徒の夫妻、ジャック・バヘードさんとネリー・バヘードさんが責任者として携わってきた。新しい施設も、バヘード夫妻がこれまでと同じく責任者として関わっていく予定だという。
シリアでは地震により、アレッポのほか、イドリブ、ハマー、ラタキアなど、主に北西部の都市で特に大きな被害が出た。これらの都市では、計5万6千人が地震の影響を受けたとされる。アレッポでは公式の発表で470人余りが死亡。3〜4万人とされる人口のうち、約半数の2万人が被災した。現地の住民の中には、町の建物の7〜8割が倒壊したと話す人もいる。
シリアには、隣国レバノンを経由して入国した。岩村氏によると、かつてはレバノンの首都ベイルートとアレッポを結ぶ飛行機やバスがあったが、現在はタクシーしか移動手段がなく、約8時間かかる。道沿いには、テロリストなどが入らないよう「検問所」が幾つも設置されていた。
シリアは、深刻な経済危機にあるレバノンよりもさらに経済状況が悪く、公務員の収入は1カ月換算で10ドルほどしかない。現地通貨のシリアポンドはインフレが続いており、現在は1ドルが1万3千シリアポンド。1センチ近い厚さの札束になる量だ。それでもシリアは物価が安く、1ドル分のお金があれば、何人分もの食事を用意できるという。
岩村氏らの元には、シリアでもレバノンでも、シリア在住の子どもたちやシリア難民の子どもたちが近づいてきて、パンや赤ちゃん用のミルクなどを求めてきた。ベイルートでは、戦禍を逃れてシリアからやって来たものの、家庭が崩壊し路上で生活するようになった少年ヌルディン君(14)に出会った。ヌルディン君は父親と共に難民として逃れてきたが、父親の再婚相手から虐待を受け、家を出ざるを得なくなったのだという。
ベイルートの中心部から車で2時間ほどのエリアスでは、シリア人の難民キャンプを訪れた。レバノン政府が認めていない難民キャンプであるため、彼らは文字通り紙切れ一枚のようなテントで生活をしていた。
近くにあった別の難民キャンプでは、10人のきょうだいがいるという少女ラハブさん(12)が言葉の通じない中、ボディーランゲージで応じてくれた。ラハブさんは母親が出産を控える中、家族を支えようと学校にも行かず、1日2ドルの収入を得るため農場で働いていた。小さい弟や妹たちを終始気遣いながらも、日本から来た客人を歓迎する姿に、岩村氏らは強く心打たれたという。
今回の地震を巡っては、被災したシリア、トルコ両国に対する国際社会の支援に格差があり、シリアの人々の間では怒りの声が上がっていた。また、内戦に介入し続ける米国に対する反感が強く、現地で米ドル通貨を使うことに抵抗を感じる人もいるという。
バヘード夫妻の長女であるナタリーさん(27)は、イタリアで学位を取得しており、そのまま欧州で暮らすこともできたが、アレッポに戻ってきた。繁栄を成功とする欧米社会の価値観より、家族や隣人との助け合いを大切にする故郷を選んだのだった。
「欧米ではSNSやメディア、娯楽映画に人々はだまされています。全てがフェイクだと気付きました。だから全部捨てて、アレッポに戻ってきたの」。ナタリーさんはそう言い、「私たちには古くからの歴史があります。たくさんいいものを持っています。伝統を保持しています。私たちの側の方こそ西洋に影響を与え、歴史や伝統について教えることができるのです」と話した。
アレッポ訪問時には、国営のシリア・アラブ通信(SANA)や、シリア正教会が運営するテレビ局「スボロTV」の取材も受けた。日本で集めた救援金に現地の人々は感謝していたとし、カヨ子基金は、孤児たちが暮らす施設建設のため継続した支援を求めている。寄付は、以下の口座で受け付けている。
■ ゆうちょ銀行の場合
記号:14340 番号:96549731
※ 通信欄に「シリア」と記載
■ ゆうちょ銀行以外の場合
店名:四三八(店番:438) 預金種目:普通預金 口座番号:9654973