難病治療のため聖路加(せいるか)国際病院(東京都中央区)に通院していた女性が、病院でチャプレンをしていた牧師から性被害を受けた事件で、加害者である牧師の側に立ち女性をおとしめる内容の声明によって名誉を毀損されたとして、女性は21日、声明に関わった牧師3人と、声明を掲載したキリスト教系新聞2紙の発行元に対し、慰謝料など計330万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。
女性が訴えたのは、深谷美枝(単立・横浜聖霊キリスト教会牧師)、齋藤篤(日本基督教団仙台宮城野教会牧師)、小泉麻子(同教団大和教会牧師)の各氏と、「キリスト新聞」を発行する株式会社キリスト新聞、「クリスチャン新聞」を発行する宗教法人いのちのことば宣教団体。クリスチャン新聞は現在も問題の声明を含む記事をウェブサイトに掲載しており、女性は記事の削除も要求。また、それぞれに対し謝罪広告も求めている。
女性は2017年5月、当時聖路加国際病院でチャプレンをしていた柴田実氏から2度にわたる性被害を受けた。柴田氏は日本基督教団の無任所教師(牧師)で、当時は横浜聖霊キリスト教会の副牧師も務めていた。
18年9月に柴田氏が書類送検されたことが報道されると、深谷氏と「A牧師(柴田氏)を支えて守る会」による声明が、キリスト新聞とクリスチャン新聞に掲載された。声明は、「この事件は、真面目に患者に寄り添ってきたチャプレンが無実の罪を着せられたもの」とした上で、女性が柴田氏に対し一方的な要求や愛憎などの強い感情をぶつけたと示唆する内容を含んでいた。
訴状によると、齋藤氏は自身のフェイスブックで「守る会」の一員であることを明かした上で、声明を掲載したキリスト新聞の記事を引用。「1人でも多くの方々に、この記事を読んでいただきたいと思います。私は、この声明が真実であると信じ、賛同します」などと述べ、声明を拡散していた。また、小泉氏も同様に、自身のフェイスブックで声明を引用し、「守る会」への支持を呼びかける投稿をしていたという。
提訴した21日には、衆議院第一議員会館で「聖路加国際病院チャプレンによる性暴力サバイバーと共に歩む会」が主催する院内集会・記者会見が開かれ、女性も出席した。女性は、「守る会」の活動は非常に集団的なものだったとし、強い精神的苦痛を受けたことを告白。声を上げた被害者をまるで加害者のように扱い、さらに苦しめる2次加害の深刻さを話し、性被害者に対する非難の根絶を訴えた(関連記事:「被害者が声上げると加害者扱い」 聖路加チャプレン事件2次加害訴訟、衆院議員会館で院内集会)。