カリブ海の島国ハイチで、キリスト教団体のスタッフとして働いていた米国人の女性看護師が誘拐される事件が発生した。看護師は幼い娘と共に誘拐され、事件発生から既に5日がたっているが、2人の身の安全は不明。誘拐したギャングは身代金として100万ドル(約1・4億円)を要求している。
誘拐されたのは、ハイチで教育関係の働きを行っているキリスト教団体「エリ・ロイ・ハイチ」のスタッフであるアリックス・ドルサインビルさんとその娘。7月27日午前、首都ポルトープランス近郊のエリ・ロイ・ハイチの施設敷地内から誘拐された。
目撃者がAP通信(英語)に語ったところによると、武装した男らが、エリ・ロイ・ハイチの所有するレンガ造りの小さな診療所に押し入り、患者らに医療的ケアを提供していたアリックスさんを連れ去っていったという。
エリ・ロイ・ハイチは31日に発表した声明(英語)で、「私たちは、米国、ハイチ両国の当局や協力者と共に、2人の自由を確保するため継続して取り組んでいます」と説明。その一方で、「多くの人が2人の帰還のために尽力していますが、現在のところ、より具体的に詳細をお伝えすることはできません」としている。
アリックスさんは、2020年からエリ・ロイ・ハイチで看護師として働いており、21年にはエリ・ロイ・ハイチの創設者で代表のサンドロ・ドルサインビルさんと結婚した。
初めてハイチを訪れたのは、30万人以上の犠牲者が出た大地震のあった10年。当時はまだ学生で、休暇や夏休みを利用してハイチ訪問を繰り返し、看護師になってからも自費でハイチを何度も訪れ、活動していたという。
エリ・ロイ・ハイチは、アリックスさんについて次のように紹介している。
「彼女はハイチに何年も住み、私たちのスタッフになる前は、さまざまな方法で愛とケアを示してきましたが、子どもの頃から傷ついた人たちのために心を砕く人でした。彼女は愛と思いやりを示すために人々を探し求め、彼女の優しさから漏れる人はいません。アリックスは、マルコによる福音書12章30節以降にある聖書の命令『心を尽くし、精神を尽くし、思いを尽くし、力を尽くして、あなたの神である主を愛しなさい。・・・隣人を自分のように愛しなさい』に従い、イエス様の足跡を追う生き方をしています」
エリ・ロイ・ハイチは、2人の安全を守るため、事件に関してソーシャルメディア上で憶測を語ることを控えるよう求めるとともに、「アリックスとその娘の保護と自由のために、どうか私たちとともに祈り続けてください」と呼びかけている。
ハイチでは、21年7月に大統領が暗殺されるなど政情不安が続いており、それを背景にギャングによる誘拐事件が多発している。同年10月には、米国人とカナダ人の宣教師家族計17人がギャングに誘拐される事件が発生している。この事件は、健康上の理由などから5人が先に解放されたものの、12人が約2カ月間にわたって拘束され、ギャングらの隙を見て自力で脱出したことで解決に至っている(関連記事:ハイチ宣教師誘拐事件、家族が証言 身代金支払われるも誘拐犯の間に分裂)。