キリスト教に改宗したとしてイスラム教に対する背教を理由に、2010年9月に死刑判決を受けたことのあるイラン人牧師のユセフ・ナダルカニ氏が2月26日、イラン革命を記念する年に一度の恩赦で釈放された。ナダルカニ氏は、背教についてはその後に無罪とされたが、別の罪状で逮捕され収監されていた。迫害情報サイト「モーニング・スター・ニュース」(英語)が5日に伝えた。
同サイトによると、キリスト教改宗者で最近釈放されたのは、ザマン・ファダエイ氏、ハディ・ラヒミ氏に続いて、ナダルカニ氏が3人目。3人は釈放を歓迎する一方で、イランの基準から見ても自分たちの事件は法的不正が多かったとし、言い渡された刑期の大部分は釈放前に既に終えていたと指摘した。
信教の自由を擁護するキリスト教人権団体「中東コンサーン」(MEC)のイラン専門家は、同サイトに対し、匿名を条件に次のように述べた。
「彼らの恩赦は、最初の判決の不当性と、彼らとその家族が耐えた苦しみに対処するものではありません。しかし、彼らが自由になり、再び家族と一緒にいられることの故にうれしく思います」
ナダルカニ氏は12年9月、死刑を言い渡されていた背教については無罪となったが、イスラム教徒を伝道したとするより軽微な罪で有罪となり、3年の禁錮刑を言い渡された。
その後、16年5月には、情報省の捜査官らが同国北西部の都市ラシュトでキリスト教徒の自宅や家の教会に手入れをした際、妻と共に再び逮捕された。同年7月、ラシュトの革命裁判所は、ナダルカニ氏を「国家の安全保障に反する行為」の罪状で起訴し、シオニストであるとして告発した。
ナダルカニ氏とその妻、他のキリスト教徒2人は翌17年6月、国家の安全保障に反する行為や家の教会の宣伝、キリスト教シオニズムの推進を行ったとして有罪となり、それぞれ10年の禁錮刑を言い渡された。ナダルカニ氏はまた、同国南東部の都市ニークシャフルでの2年間の収監も言い渡された。
それでもナダルカニ氏は、翌18年7月に自宅で身柄を拘束され、刑の執行を開始するためにエビン刑務所に連行されるまでは、自由の身だった。MECや他の人権団体によると、国家治安部隊はこの拘束時に、ナダルカニ氏とその息子に暴行を加えたという。司法審査により、ナダルカニ氏の刑期は後に6年に短縮された。
今回のナダルカニ氏の釈放に先立ち、2月8日にファダエイ氏が、15日にラヒミ氏が、共に悪名高いエビン刑務所から釈放されている。
ラヒミ氏は20年2月、ラシュトの家の教会のメンバー3人と共に逮捕され、3カ月後に2億トマン(約164万円)の保釈金を支払い釈放された。同年8月、ラヒミ氏は、家の教会に通っていたことを理由に、国家の安全保障に反する行為とキリスト教シオニズムの推進の罪状で4年の禁錮刑を言い渡された。
この際に逮捕された他のキリスト教徒たちは、いずれも2年から5年の禁錮刑を受けた。1カ月後にはラヒミ氏の判決が控訴審でも支持され、ラヒミ氏は22年1月、刑期を開始するために出頭した。
同じくイスラム教から改宗したファダエイ氏は、キリスト教徒になったことでイラン政府の怒りを買ったことで知られている。「家の教会を宣伝し、キリスト教シオニズムを推進することで国家の安全保障に反する行為をした」として、20年6月に10年の禁錮刑を言い渡されていた。
イラン国営の「イスラム共和国通信」(IRNA)によると、ナダルカニ氏らの恩赦は、「数万人」の受刑者を釈放する恩赦の一環として、同国のアリー・ハメネイ最高指導者によって承認されたものだという。