東京・秋葉原で2008年に発生した無差別殺傷事件(7人死亡・10人負傷)で、殺人罪などにより死刑が確定していた加藤智大死刑囚(39)の刑が執行されたことを受け、日本カトリック正義と平和協議会(正平協)は27日、岸田文雄首相と古川禎久(よしひさ)法相に宛てた抗議声明(26日付)を発表した。また、日本キリスト教婦人矯風会も同日、刑執行に抗議し、死刑廃止を求める要望書を古川法相に提出した。
日本カトリック正義と平和協議会
正平協は、刑が執行された7月26日が、16年の相模原障がい者施設殺傷事件(19人死亡・26人負傷)の発生日であったことに言及。「被害に遭われた方々のために祈るとともに、『生きる価値のないいのち』など決してないのだ、という思いを新たにしていた矢先の死刑執行でした」とした。また、18年も同じ日に、オウム真理教の元幹部6人の死刑が執行されており、「国家が、あえてこの同じ日を選び、『生きる価値のないいのち』と認めた存在を再び抹殺したことに戦慄(せんりつ)を覚えます」とした。
その上で、カトリック教会は「イエス・キリストが示した福音の光によって、すべての人のいのちは尊く、たとえどんなに重い罪を犯した人であってもその人格の尊厳は決して失われないと固く信じています」と説明。現代は、刑罰制度の厳格な適用により、死刑以外の方法で犯罪の再発を防止し、社会の安全を確保することが可能な時代であるとした。
ミャンマーの軍事政権が25日に、民主化指導者アウン・サン・スー・チー氏の側近を含む民主活動家ら4人の死刑執行を発表したことにも言及。これに対しては、日本を含めた国際社会が非難の声を挙げたが、その翌日に国内で死刑が執行されており、「日本政府が同じ轍(わだち)を踏み、国際的な地位を自ら貶(おとし)める暴挙に至ったことを、私たちは深刻に憂慮いたします」とした。
その上で、「死刑という暴力によっては、決して平和な社会を築くことはできません。むしろ時代に逆行するその野蛮さが、新たな暴力を生み出すことになるからです」と主張。回心や赦(ゆる)し、和解は「たとえ困難ではあっても、決して不可能ではない」とし、死刑の廃止と、それに向けた執行の即時停止を強く訴え続けるとした。
日本キリスト教婦人矯風会
矯風会は、「戦争と死刑は国家の殺人」だとして、昨年12月以来となる死刑執行に抗議。一方、事件によって命を奪われ、傷を受けた被害者、遺族の心情は計り知ることができないとし、「被害者への国の支援を同時に求めます」と要望した。
古川法相が記者会見で、国民世論の多数が死刑についてやむを得ないと考えており、凶悪犯罪が後を絶たない状況から、死刑廃止は適当ではないと発言したことについては、「政府の実施する世論調査には質問表現の修正や質問の追加の必要等の見直しが求められています」と指摘。「死刑制度が犯罪の抑止力になっていないことは、人生に絶望し誰でもいいから殺して死刑になろうという衝撃的な事件が繰り返し起こっていることでも明らかです」と訴えた。
また、国連の自由権規約委員会が日本の死刑制度に対し厳しい勧告を出していることにも触れ、「死刑制度存置の議論をするために実態の情報を公開し広く議論を起こすことを要望します」とした。