カナダを訪問中のローマ教皇フランシスコは25日、カトリック教会がかつて運営していた同国内の寄宿学校で、先住民の子どもに大規模な虐待が行われていた問題について、「イエス・キリストの福音とは相いれない悲惨な過ち」だったとして謝罪した。
教皇は25日午前、西部アルバータ州マスクワシスの寄宿学校跡地にある墓地を訪問。犠牲となった子どもたちのために祈りをささげた後、先住民ら数千人が集う野外集会に参加した。マスクワシスのエルミネスキン地区は、先住民の子どもを対象にした寄宿学校の中でも、最大規模の寄宿学校の一つがあった地で、多くの子どもたちが犠牲になった。
膝の痛みのため5月から車椅子で移動している教皇は、この日も車椅子で墓地を訪問。バチカン・ニュース(日本語版)によると、立ち並ぶ十字架の墓標の間で沈黙のうちに祈りをささげた。また、寄宿学校で亡くなった子どもたちの名が記された横断幕には口づけして祈りをささげ、追悼のモニュメント前でも車椅子を止め、頭を垂れて祈りをささげた。
その後、カナダ全土から集まった先住民の集会に参加。集会には、カナダのメアリー・サイモン総督やジャスティン・トルドー首相も参加した。サイモン氏は母親がイヌイットで、昨年7月に先住民としては初めて総督に就任した。集会には、それぞれの民族衣装を着た先住民らが太鼓の音を鳴らしながら入場し、舞や歌を披露した。
バチカン(ローマ教皇庁)の発表(英語)によると、教皇は集会のメッセージで、寄宿学校制度を含むカナダの同化政策が、いかに先住民にとって破壊的なものであったかを覚える必要があると強調。4月にも、バチカンを訪れた先住民の代表団に謝罪していた教皇は、「私が今、皆さんの間にこうしているのは、この悔悛(かいしゅん)の巡礼の最初の一歩として、もう一度皆さんの赦(ゆる)しを乞い、深い悲しみを伝えるためです」と語った。
その上で、「多くのキリスト教徒が、先住民を抑圧する列強の植民地主義的な考え方を支持してきたことをお詫びします。特に、カトリック教会と修道会の多くのメンバーが、とりわけ無関心によって、当時の政府による文化的破壊と、寄宿学校制度を頂点とする強制的な同化政策に協力したことについて、赦しを求めます」と述べた。
教皇は、「これは最初の一歩であり、出発点にすぎないことに心から同意します」と述べる一方、未来に目を向ける必要性も指摘。過去の調査やトラウマに苦しむ寄宿学校の元生徒らに対する支援の必要性に触れつつ、「私は、この地のキリスト教徒と市民社会が、先住民のアイデンティティーと経験を受け入れ、尊重する能力を育むことを信じ、祈ります。そして、先住民をよりよく知り、尊重するための具体的な方法が見いだされ、すべての人々が共に歩むことを学ぶことができるように願っています」と語った。
前日24日にカナダに到着した教皇は、6日間の日程で滞在する予定。27日には、サイモン総督を表敬訪問するほか、トルドー首相やカナダの各界要人、先住民代表、駐在外交団と会談。28日には、寄宿学校の元生徒らとの会談も予定されている。その後29日夕に、北部ヌナブト準州のイカルイト空港からローマへの帰途に着く予定。
先住民の子どもを対象とした寄宿学校は、カナダ政府による同化政策の一環として、1870年代から1990年代まで運営された。その多くはさまざまな教派のキリスト教会が運営を担い、その中でも最も多くの寄宿学校を運営していたのが、カトリック教会だった。カナダの真実和解委員会は、2015年に発表した報告書で、少なくとも6千人の子どもが寄宿学校で死亡したと推定している。しかし、正確な数字は現在も明らかになっていない。