米カリフォルニア州ラグナウッズの教会で15日、銃乱射事件があり、1人が死亡、5人が重軽傷を負った。事件は礼拝後の昼食会中に発生し、牧師や信徒らが命懸けで容疑者の男を取り押さえたことで、被害は最小限に収まった。警察は「卓越した英雄的行動と勇気」だったとたたえている。
米ロサンゼルス・タイムズ紙(英語)によると、ラグナウッズにあるジェニーバ長老教会で、30~40人の信徒が日曜午前の礼拝後、昼食会を行っていたところ、銃を持った60代のアジア系の男が発砲を始めた。その後の報道によると、男は台湾出身でネバダ州ラスベガス在住の周文偉(デビッド・チョウ)容疑者(68)と判明している。
昼食会に集っていたのは、10年前からジェニーバ長老教会の会堂内で礼拝を行っていたアーバイン台湾基督長老教会(ITPC)の信徒たちで、その多くは高齢者だったという。
米CBS(英語)によると、昼食会は、ITPCを以前牧会していた張宣信(ビリー・チャン)牧師(67)の訪問を歓迎するものだった。チャン牧師は2年前、妻と共に台湾に帰国。その後、新型コロナウイルスの感染が拡大したため、退任後2年ぶりの訪問になったという。チャン牧師はこの日午前の礼拝でメッセージ(中国語)も伝えている。
米ニューヨーク・ポスト紙(英語)によると、チョウ容疑者は午前10時ごろ、ジェニーバ長老教会に到着。受付の担当者は、受付票への記入を求めたが、過去に2度礼拝に参加したことがあると言い、記入を断ったという。チョウ容疑者は一般参加者と同じく、礼拝と昼食会に参加。しかし昼食会中、チェーンなどを使ってドアを固定し始めた。理由を尋ねる人もいたが、チョウ容疑者は何も答えなかったという。目撃者によると、チョウ容疑者は「Security(警備)」という文字が書かれた黒色のシャツを着ていた。ITPCは、信徒たちがチョウ容疑者を警備員だと思ったと説明している。警察によると、チョウ容疑者はドアの鍵穴に瞬間接着剤を入れることもしていた。
ロサンゼルス・タイムズ紙によると、昼食会の終盤となった午後1時26分ごろ、信徒らがチャン牧師と記念写真を撮影しているときに、チョウ容疑者は発砲を始めた。「彼が7、8発撃ち、教会のメンバーたちがテーブルの下に隠れるのを見ました」。チャン牧師はCBSに当時の様子をそう語った。しかし、チョウ容疑者が銃弾を再装填(そうてん)するため動きを止めた隙に、チャン牧師は近くにあった椅子で殴りかかり、他の信徒らがチョウ容疑者の足をつかんで延長コードなどで縛り上げたという。「誰かが行動を起こす必要がありました。彼が銃を下ろしているのを見て、チャンスだと思ったのです。だから、彼に向かっていきました」とチャン牧師は語った。
しかしこの際、同じくチョウ容疑者に向かって突進した医師の鄭達志(ジョン・チェン)さん(52)は、銃弾3発を受けて亡くなった。さらに、66歳から92歳までの男性4人と86歳の女性1人の計5人も被弾。このうち4人は重体だという。被害者は全員が台湾系だった。
亡くなったチェンさんは、母親に付き添うため昼食会に参加していた。チャン牧師は、「彼の母親は、『私の息子よ、私の息子よ』と言って泣いていました」と言い、「チェンさんの家族のために祈ってください」と涙をこらえながら語った。
近隣のヨーバリンダで市議会議員を務めているペギー・フアンさんは、両親がITPCの信徒で、地元のオレンジ・カウンティ・レジスター紙(英語)に対し、「信徒たちの間には、悲哀と受け入れ難い思いが渦巻いています。(昼食会は)本来、喜ばしい機会となるはずだったのです」と語っている。また、ロサンゼルス・タイムズ紙に対しては、同教会の信徒の中には軍関係の経歴を持つ人が多いとも語っている。
ジェフ・ハロック郡保安官代理は、「あの教会の信徒たちは、卓越した英雄的行動と勇気を示してくれました。彼らが介入しなければ、状況はもっと悪くなっていた可能性があるといえるでしょう」と述べた。
警察はチョウ容疑者を逮捕し、現場から市販の銃2丁のほか、弾倉や火炎瓶のようなものも回収した。犯行はチョウ容疑者単独によるものとみられている。チョウ容疑者は中国と台湾の政治的な緊張に不満を抱いていたとみられており、警察は政治的動機に基づくヘイトクライム(増悪犯罪)として捜査を進めている。
カリフォルニア州知事事務所はツイッター(英語)に、「誰も礼拝に行くことを恐れる必要はないはずです。私たちの思いは、犠牲者、地域社会、そしてこの悲劇的な出来事に影響を受けたすべての人々と共にあります」と投稿した。
台湾政府は事件を受け、駐ロサンゼルス台北経済文化弁事処(総領事館)が緊急対応計画を発動したと発表した。台湾外交部(外務省)の欧江安報道官は、「台湾外交部は、犠牲者とその家族に深い哀悼の意を表します。われわれは犠牲者の家族と連絡を取り合い、彼らのニーズを理解し、必要なすべての援助を提供します」と述べた。
一部の信徒らは、犠牲者の家族のために、目標金額10万ドル(約1300万円)のオンライン募金(英語)を行っている。募金の案内には、次のように書かれている。
「私たちは無意味な暴力に心を痛め、インターネットを通じ、助けを求めています。私たちの台湾系の小さな教会は、何世代にもわたって周囲のコミュニティーに愛と親切を注いできました。そのような中、私たちの教会、犠牲者、そしてその家族は、悲劇から立ち直ることに集中しなければなりません。どうかこの寄付にご協力ください。収益は100パーセント、ITPCと犠牲者の家族に送られ、彼らの癒やしの旅路を支援します」
米国では今回の事件前日の14日、ニューヨーク州バッファローの黒人居住区でも、重武装した白人至上主義を自称する18歳の男が、食料品店で銃乱射事件を起こしている。この事件では、キリスト教徒少なくとも2人を含む10人が死亡し、3人が負傷した。米連邦捜査局(FBI)は人種的動機によるヘイトクライムとみて捜査を行っている。この事件では、男は投降するまでの間、人々を殺害する様子をインターネットでライブ配信していた。