冷戦後の世界はイデオロギーではなく、宗教などの文明の違いによって摩擦や紛争が生じると指摘し、世界的なベストセラーとなった著書「文明の衝突(原題:文明の衝突と世界秩序の再創造)」で知られる米政治学者のサミュエル・P・ハンチントン氏(比較政治学)が24日、死去した。81歳。死因は明らかにされていない。
米ハーバード大はホームページで27日までに、ハンチントン氏がマサチューセッツ州マーサズ・ビンヤードの介護施設で死去したと発表。昨年までの58年間にわたって同大で教鞭をとったハンチントン氏は、冷戦終結後の93年に米外交専門誌の「フォーリン・アフェアーズ」に論文「文明の衝突」を発表。96年にはそれを加筆して出版した。
ハンチントン氏は同著で、世界がキリスト教やイスラム教、ヒンドゥー教といった主に宗教を基礎とした文明ごとに分裂し、各文明間で対立が発生すると指摘した。冷戦後の対立構造に対する視点をイデオロギーから宗教にシフトしたことで大きな議論を呼んだが、旧ユーゴスラビアでの内戦、01年の米同時多発テロなどを予見したものだとされ、世界的に注目を集めた。
ハンチントン氏は、世界を西欧、イスラム、ヒンドゥー、中華など8大文明圏に分類。このうちイスラム文明、中華文明(中国・朝鮮・ベトナム・シンガポール・台湾)が勢力を伸ばすとし、西欧的価値観が危機にさらされるためこれらの文明から保護しなければならないと指摘する。
ハンチントン氏の分類では、日本は2〜5世紀に中華文明より発生した日本一国だけで成立する孤立文明だとされる。歴史的に強国側に立つ傾向があるされ、中華文明の影響力拡大により中国に従う恐れがあるなどと指摘されている。
1927年、ニューヨーク市生まれ。飛び級により18歳でエール大を卒業、シカゴ大で修士号、ハーバード大で博士号を取得。ハーバード大で1950年から昨年まで教鞭を取り、その間にはホワイトハウスで政治顧問としても活躍した。長年にわたる米民主党の支持者で、現実主義を基調とした保守的な思想を持つ国際政治学の世界的権威として知られていた。