「何でキリスト教メディアが怪獣映画のレビューを掲載するの?」と、疑問やお叱りの声を受けそうだが、ちょっと待ってもらいたい。日本の「怪獣」は今や世界の「KAIJU」として、グローバルスタンダードになっていることをご存じだろうか。ワーナー・ブラザースとレジェンダリー・ピクチャーズが製作する「モンスターヴァース」シリーズは、単なる子どもだましの「怪獣映画」にあらず。これこそブロックバスター映画の真打ちにして、21世紀型のモンスターパニック映画の真骨頂である。つまるところ、キリスト教的価値観を色濃く反映し、西洋文化によってろ過された怪獣映画なのである。だから、そこかしこに「キリスト教的な価値観」が見え隠れするのも無理からぬこと。
そのような観点からこの一連のシリーズ、そしてその最高傑作にしてクライマックスとなる本作「ゴジラvsコング」をひもとくとき、いろいろと面白いポイントを見いだすことができる。
そもそもリメイク大好きなハリウッド映画界が、日本の怪獣たちを放っておくはずがない。ヒーロー映画はもちろんのこと、それらを凌駕(りょうが)して人気を博しているのがゴジラである。しかし、2014年の「GODZILLA ゴジラ」の前に、ハリウッドの汚点とさえ揶揄(やゆ)されるローランド・エメリッヒ監督版の「GODZILLA」が1998年に製作されている。公開当時はゴジラの造形が隠されていたため、日本の多くの怪獣ファン、そして映画ファンは固唾(かたず)をのんで「ハリウッド版ゴジラ」の登場を待っていた。かくいう私もその一人だった。そして映画が始まって30分近くして、やっとゴジラがその姿を現した・・・と思った途端、多くの日本人は失望と落胆のため息をつくことになったのである。なぜなら、その姿はどう見てもイグアナでしかなく、また米軍が大量の魚をエサにゴジラをおびき出すシーンでは、単なる低能な巨大爬虫(はちゅう)類にしか見えなかったからである。当然映画は大コケ。その後ハリウッドでは、ゴジラ映画は長らくお蔵入りしてしまった。
そんな手痛い失敗をしてもめげないのがハリウッド。2014年に「破壊神」としてゴジラをよみがえらせ、19年の「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」では、モスラ、ラドン、キングギドラという人気怪獣たちの頂点に立つサクセスストーリー(?)を生み出した。一方、これと並行する世界として、米国で何度もリメイクされているキングコングの新たな物語をハリウッドは語り出した。それが17年の「キングコング:髑髏(どくろ)島の巨神」である。この時、コングは「守護神」として描かれた。
そして21年、コロナで1年延期となったが、ついに満を持して「破壊神」ゴジラと、「守護神」コングが激突する待望の最新作「ゴジラvsコング」が公開されたのである。
観客が期待するのは、この二大モンスターが所狭しと暴れ回り、がっぷり四つに組み合う姿である。しかし観終わって思い返すと、実はこれは彼らの物語ではなく、人間の業を描き出した作品であることに気付かされる。
確かに本作の肝は、タイトルにあるようにゴジラとコングのガチンコ対決である。しかし、どうして彼らが戦わなければならないのか。そして、その先にどんな展開が待っているのか。そう考えるときに見えてくるのは、巨大生物たるゴジラとコングではない。むしろ人間の果てることなき強欲が、すべての事態を引き起こしたという展開になっているのである。
詳細は実際に映画をご覧になっていただきたいが、ラストには「破壊神」と「守護神」の戦いに割り込もうとする人間の浅はかさが描かれている。しかも諸悪の根源たるその人間は、ゴジラとコングを「王」の立場から蹴散らし、自らが王となり、果てには神にならんと欲しているのである。これなど、聖書に描かれている人間の罪にまみれた姿に他ならない。劇中、その野望がはかなくもついえていくシーンは、ハーマン・メルヴィルの小説『白鯨』に登場するエイハブ船長を彷彿(ほうふつ)とさせた。愚かにも神(的な存在)に牙をむき、己の分際をわきまえずに猪突猛進する思い上がった人間の悪意が、そこには描き出されていた。
聖書の一節に次のようなものがある。
あなたの指のわざである あなたの天
あなたが整えられた月や星を見るに
人とは何ものなのでしょう。
あなたが心に留められるとは。
人の子とはいったい何ものなのでしょう。
あなたが顧みてくださるとは。
(旧約聖書・詩篇8篇3~4節、新改訳2017)
これは天の偉大さを前に、小さな粒ほどにしか存在し得ない人間が、天と自身を見比べて歌った詩である。この壮大な天、そしてこれらを創造されたもっと偉大な方(神)に思いをはせるとき、その対極的な両者(人と神)が結び合うことの不思議さ、畏れ多さを吐露せざるを得ないのだろう。
怪獣映画の魅力は、神の象徴として立ち現れる巨大生物(ゴジラ、コングなど)と、それらを前にして単なる脇役でしかない人間が、いかにうまくやりとりするかにかかっているといえよう。本作「ゴジラvsコング」は、「モンスターヴァース」シリーズの中では、その辺りを一番丁寧に描き出している。そして、「神の前に人間は謙遜になるべきだ」という至極まっとうな聖書的メッセージを、最新のVFX(視覚効果)とCG造形によって、見事なエンターテイメントへ昇華させている。
コロナで鬱屈(うっくつ)とした毎日を送っている人は、ぜひ本作をご覧になり、スカッとしてもらいたい。ちなみに付け加えておくと、ゴジラとコングの対決は、はっきりと決着が着く。さて、どうなるのか。ぜひ劇場でお確かめください(笑)。
■ 映画「ゴジラvsコング」予告編
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