米ジョン・テンプルトン財団は20日、宗教界のノーベル賞と呼ばれる「テンプルトン賞」の今年の授賞者に、チンパンジーの研究で知られる霊長類学者のジェーン・グドール氏(87)を選出したと発表した。
ロンドン出身のグドール氏は、野生のチンパンジーの行動調査を通して、それまで人類固有と考えられていた道具を使う能力がチンパンジーにも存在することを証明。それまでの「ヒト」の定義を揺るがす大発見をした。1977年には、野生動物に関する研究教育保護機関「ジェーン・グドール研究所」(JGI)を設立。2002年には国連平和大使に任命され、03年には大英帝国勲章、07年には京都大学から名誉博士号を授与されるなどしている。80代の現在も世界中を飛び回り、動物や自然保護、環境教育などのために奔走している。
同財団は、「その画期的な発見は、相互に結び付いた世界における人類の役割に対する理解を変えた」と授賞理由を説明。「彼女の提唱は、この地球上の生命を大切にするという人類の大きな目的を示している」と評価した。
テンプルトン賞は、150万ドル(約1億6千万円)以上の賞金が贈られる世界最大級の年間個人賞。世界的な投資家で篤志家、また長老派のクリスチャンとして知られる故ジョン・テンプルトン氏によって1972年に設立された。第1回の受賞者はマザー・テレサで、テゼ共同体の創立者であるブラザー・ロジェや米大衆伝道者のビリー・グラハム氏らが受賞している。昨年は、米国立衛生研究所(NIH)所長で信仰と科学の調和を目指す「バイオロゴス財団」の創設者であるフランシス・コリンズ氏が受賞した。女性の受賞は、グドール氏が4人目。
グドール氏は、米宗教専門のRNS通信とのインタビュー(英語)で、自身の宗教的背景や宗教観について語っている。それによると、祖父は会衆派の牧師だったが、「私たちは特に信心深い家族ではありませんでした。たまに教会に行く程度でした」という。だが16歳の時、ウェールズ人の牧師と恋に落ち、それがきっかけで「私の中に宗教が入ってきた」と話している。
一方、科学と宗教の関係については「私たちの心は有限で、宇宙は無限です」と言い、科学のみでは生命を完全に説明することはできないと話す。「今日、科学と宗教が協力し、多くの人が宇宙や知性の背後にある目的を見いだそうとしていることは、うれしいことです。アインシュタインもそうでした。私の親友であるフランシス・コリンズもそうでした」
一方、英ガーディアン紙との2010年のインタビュー(英語)では、現在もクリスチャンかを尋ねる質問に対し、「そうだと思います。私はクリスチャンとして育ちました」と回答。進化論と神への信仰の間には矛盾はないとし、人間が自然界を「支配」する存在として描かれている創世記についても非難することなく、「支配(dominion)」は語訳だとし、「スチュワードシップ(stewardship、管理)」を意味するものだと語っている。