前副大統領のジョー・バイデン氏は来年1月、正式に大統領に就任すれば、ドナルド・トランプ大統領が発令した数々の大統領令を無効化し、トランプ政権のプロライフ(反中絶)政策を撤廃するとしている。
米国の大統領選は、正式な結果が依然として未確定だが、複数のメディアはバイデン氏の勝利を伝えている。プロライフ・メディア「ライフニュース」(英語)によると、バイデン陣営はすでに「バイデン政権の検討課題」を発表しており、これには「早期の大統領権限の行使」も盛り込まれている。それによると、バイデン氏の方針により、トランプ政権のプロライフ政策の一部が覆される見通しだという。
バイデン政権の検討課題には次のような文面がある。
「(バイデン氏は)中絶、妊娠、出産に関するトランプ氏の大統領令を無効化する。これにはメキシコシティ政策の撤廃、全米家族計画連盟(プランド・ペアレントフッド=PPFA)への助成金支出再開、患者保護・医療費負担適正化法(通称・オバマケア)による避妊薬・避妊具への保険適用が含まれる」
メキシコシティ政策は、当時のロナルド・レーガン大統領(共和党)の署名で初めて導入されたもので、海外の非政府組織(NGO)に対し、米国民の税金を使って「家族計画の方法として中絶を行ったり、積極的に推し進めたり」することを禁じる政策である。
メキシコシティ政策を無効化するというバイデン氏の公約は、直近の2人の民主党大統領が取った政策と一致している。レーガン元大統領の後、共和党のジョージ・H・W・ブッシュ元大統領(父ブッシュ)を経て、民主党のビル・クリントン元大統領が1993年に就任すると、同政策を撤廃。その後、共和党のジョージ・W・ブッシュ元大統領(子ブッシュ)が2001年に就任すると、復活させた。しかし、民主党のバラク・オバマ前大統領は2009年の就任とともに再び同政策を撤廃。そして、共和党のトランプ大統領が4年前、就任直後に同政策を復活させた。
トランプ政権は今年初め、国際保健の資金を提供するあらゆる契約および下請け契約にも、メキシコシティ政策を拡張して適用することを提案した。医療政策に関する調査・提言を行っているカイザーファミリー財団によると、「近年、主要受給者に割り当てられた国際保健資金の4割は契約を通じて提供されている」という。
トランプ政権は昨年、「命を守る規則(Protect Life Rule)」を定め、連邦政府による「タイトルX家族計画プログラム」から助成金を受け取る医療施設が、家族計画の方法として中絶を実行したり、促進したり、提示することを禁止した。これを受け、米最大の中絶事業団体であるPPFAは、タイトルXから離脱した。
PPFAへの助成金支出を再開するというバイデン氏の公約は、バイデン政権が「命を守る規則」を棚上げにすることを示唆している。オバマケアの下で避妊への保険適用義務が復活した場合、雇用主が自身の宗教理念に反して、従業員の加入する健康保険の避妊補償を支払わなければならなくなる可能性がある。
反中絶団体「スーザン・B・アンソニー・リスト」のマージョリー・ダンネンフェルサー会長は以前、バイデン氏が勝利すれば、副大統領候補のカマラ・ハリス氏と共に「トランプ大統領によるプロライフの成果を直ちに白紙に戻すでしょう」と警鐘を鳴らしていた。ダネルフェルサー氏は「バイデンとハリス両氏は、米国史上最も強く中絶を支持する候補者」だと述べていた。
信仰に基づく擁護団体「カトリック・ボート」のブライアン・バーチ会長は、バイデン氏は「『貧者の小さき姉妹会』のようなカトリック修道会に、医療計画で中絶薬を提供するよう強要すること」に賛成していると指摘。「バイデン・ハリス政権は、この国のカトリック信者が最も大切にしている価値観を脅かしている」と批判している。
メディアがバイデン氏を大統領選の勝者として伝えた後、プロライフ団体「国際生命尊重連盟」は、「(バイデン氏は)中絶をオンデマンドで促進し、プロライフの法律と政策を白紙に戻す約束をした」とする声明を発表した。
バイデン氏はまた、全米で中絶を合法化した1973年の連邦最高裁による「ロー対ウェイド事件」の判決内容を法制化し、中絶への税金使用を妨げる「ハイド修正条項」を廃止する意向を表明している。しかしこれら2つは、議会の承認が必要となる見込みだ。
トランプ政権のプロライフ政策無効化に加え、バイデン氏は、批判的人種理論を教えることを制限するトランプ政権の大統領令も撤廃し、テロ多発国に対してトランプ大統領が課した旅行禁止命令も打ち切り、「若年移民に対する国外強制退去の延期措置」(DACA)を復活させることも約束した。DACAは、幼少期に不法に米国に連れて来られた移民の一部を米国に残留させ、一時的な労働許可を受けられるようにするプログラムで、2012年にオバマ政権下で導入された。
バイデン氏はこの他、世界保健機関(WHO)に再加盟し、地球温暖化対策の国際的な枠組である「パリ協定」にも再加入する意欲を示している。また、新型コロナウイルス感染拡大への対応として抜本的な措置を講じることも計画しており、全国民にマスク着用を呼び掛けるとともに、「検査と感染経路の追跡に向けた資金」を増額する意向も示している。