【CJC=東京】バチカン(ローマ教皇庁)が各国のイスラム指導者、知識人の代表を招き、カトリックとイスラムの対話を促進するためのフォーラムを11月4〜6日、ローマの教皇庁立グレゴリアン大学で開催した。
イスラム教の「聖戦(ジハード)」を批判したとされる一昨年の教皇ベネディクト十六世の発言で傷ついた関係の修復が狙い。教皇は06年9月12日、かつて教鞭をとったレーゲンスブルグ大学を訪問、学者・研究者たちに講義した際に「(預言者)ムハンマドがもたらしたのは邪悪と残酷さだけだ」とする中世ビザンチン帝国(東ローマ帝国)のマヌエル二世パレオロゴス皇帝の言葉を引用、「皇帝とペルシャ人が1391年に交わした対話に関する書籍を読んだ。皇帝は対話の中でジハード(聖戦)について言及した。宗教と暴力の関係について皇帝は『ムハンマドが新しくもたらしたものを私に見せよ。邪悪と残酷さであり、彼が教えた信条を剣で広めたということだ』と語った」と講義している。
この発言にイスラム側の反発が高まった。10月に入って、ヨルダンのガジ王子を中心に中東、東南アジア、欧州など43国のイスラム学者、イランのシーア派指導者ら138人が、教皇やプロテスタント諸派、東方正教会などのトップに「同じ神への信仰と隣人愛を共有する両宗教の対話」を訴える公開書簡を送り、今年3月、フォーラム開催が正式決定した。イスラム側の書簡への署名者はその後275人にまで拡大している。
フォーラムではバチカンの諸宗教対話評議会議長ジャン=ルイ・トーラン枢機卿と、ボスニア・ヘルツェゴビナのスンニ派イスラム法学最高権威、ムスタファ・チェリッチ大ムフティを代表とする双方それぞれ29人が「人間の尊厳」「信教の自由」などについて討議した。ヨルダン王立イスラム思想研究所を主宰するガジ王子も加わった。
教皇は、バチカンで6日、フォーラムの参加者と会見、「人間の中心性と一人ひとりの尊厳、神からの賜物であるいのちを尊重するという認識があってこそ、兄弟愛に満ちた世界を共に築くための基盤を得ることができる」と強調。人間の尊厳と基本的権利を推進・擁護するために協力しながら、平和の未来を共に築いていきたいと語った。
バチカン放送(日本語電子版)によると、教皇はこ、基本的人権である信教の自由が守られるよう、世界の政治・宗教リーダーらにアピールされ、宗教を理由にした暴力や差別・迫害は決してあってはならないと訴えた。
「神の名は、平和と友情、正義と愛の名」であると述べた教皇は、両宗教が調和と相互理解のメッセージを言葉と行動を通して絶えず示していく必要を示し、過去の先入観を乗り越え、共通の未来に向かって、特に若者たちの育成に努めながら、今後より広い対話を発展させていきたいとの希望を教皇は表明した。