中国政府公認のカトリック教会への加入を拒否したことで逮捕され、その後20年以上消息が分かっていない地下教会の司教が、死亡した可能性がある。中国当局が最近、後任司教の任命についてバチカンに承認を求めているという。
死亡が疑われているのは、保定教区(河北省)のジェームス蘇哲民(ス・ジミン)司教(88)。蘇司教は1996年、政府公認のカトリック教会である「中国天主教愛国会」への加入を拒んだことから、「反革命分子」として逮捕され、収監された。その後、司教の家族が2003年に保定市内の病院に司教が入院しているのを偶然、目撃。しかし、その後17年間、司教の安否は確認されていない。
司教のおいである蘇天祐(ス・ティヤンヨ)氏が、カトリック系のUCAN通信(本部・香港、英語)に語ったところによると、中国共産党は蘇司教の代わりに保定教区の補佐司教を務めているフランシスコ安樹新(アン・シュシン)司教を教区司教に任命するようバチカンに要請したという。そのため、蘇司教がすでに死亡しているとの観測が一部で出ている。
安司教はかつて、教皇のみに忠誠を誓い、地下教会に所属していたが、1996年に逮捕され、10年間にわたる自宅軟禁の後、公認教会で奉仕することに同意し、自宅軟禁を解かれた。
UCAN通信によると、保定教区の地下教会は安司教を「安楽な生活を求めて信仰を捨てた裏切り者」と呼んでおり、もはや司教と認めていないという。
一方、蘇司教は1981年に司祭に叙階され、93年に当時の教皇ヨハネ・パウロ2世から保定教区の司教に任命されたが、中国政府は主教としては認めてこなかった。
米下院トム・ラントス人権委員会(英語)によると、蘇司教は1996年の逮捕前も26年間にわたり、刑務所や強制労働収容所を出入りさせられ、「告訴もなく、審理もない」まま、計40年以上を監獄で過ごしている。さらに、蘇司教に敬意を表するための公開イベントなども、今日に至るまで「警察の嫌がらせ行為を受け続けている」という。
安司教の教区司教任命を求めた中国共産党による最近の要求をめぐり、天祐氏はバチカンに対し、蘇司教の安否確認と釈放を要求するよう求めている。
「バチカンは交渉を先導し、蘇司教の釈放を要求できるはずです」と天祐氏は述べ、バチカンが中国政府に協力することは、中国共産党の要求に屈することを拒否した中国のカトリック信者に対する裏切り行為だとした。「バチカンは獄中に捕らわれている司教たちを忘れてはいけません。しかし、中国天主教愛国会は獄中の司教たちをあざ笑っているのです」
バチカンと中国は2018年、中国政府が任命した司教をバチカンが追認するという暫定合意を結んだ。しかしこの合意は、宗教団体に対する抑圧が長期化していた時期に、中国政府が自らを正当化しようとしたものだと批評家らは警鐘を鳴らしている。
中国には推定1000万から1200万人のカトリック信者がいるとされているが、その約半数が、中国政府に登録されていない集会で礼拝を守っているとされている。
国際人権団体「アムネスティー・インターナショナル」は、中国では多くのキリスト教徒やチベット仏教徒、ウイグル人イスラム教徒、法輪功学習者たちが、信仰や思想を実践したことで、何十年もの間、嫌がらせを受けたり、投獄されたりしていると報告している。