エジプトの首都カイロ近郊で今月初め、教会に仕掛けられた爆弾を処理していたイスラム教徒の警察官が殉職したことを受け、遺族に向け世界のキリスト教徒から感謝状を贈ろうと、署名の募集が行われている。
署名を募集しているのは、迫害監視団体「国際キリスト教コンサーン」(ICC)。殉職したムスタファ・アビド巡査の遺族に宛てた感謝状(英語)をインターネット上に公開し、ICCのホームページ(英語)で署名を呼び掛けている。
地雷除去の専門家だったアビド氏は今月5日、カイロ近郊ナスルシティにある聖母マリア・セイフィン神父教会の屋根に仕掛けられた爆弾を処理中に、爆弾が爆発し亡くなった。この爆発で、爆弾処理班の他の隊員ら3人も負傷した。
5日は、独自のコプト暦を用いるコプト正教会では、クリスマスイブの前日に当たり、爆弾はクリスマスイブやクリスマスを狙って仕掛けられた可能性がある。ICCによると、万一爆弾が犯人の計画通りに爆発した場合、子どもを含む数百人の信者の命が奪われた可能性があった。
感謝状は、爆弾処理班の他の隊員にも宛てられており、次のように書かれている。
「感謝状への署名によって、私は皆さんに高らかな称賛と心からの哀悼の意を表します。皆さんは2019年1月5日、自らの良心と職務の故に負傷し、殉職されました。皆さんのおかげで、聖母マリア・セイフィン神父教会に対する襲撃のただ中にいた女性や子どもたちは、不条理に命を落とさずに済みました。
私は爆弾処理班の隊員の皆さんに感謝したいのです。皆さんは人命を守るために、自らを危険にさらされました。負傷された皆さんが完治することをお祈り致します。また、ムスタファ・アビド巡査を亡くされた悲しみの中におられる遺族の方々に、心から哀悼の意を表します。
『友のために自分の命を捨てること、これ以上に大きな愛はない』(ヨハネ15:13)と聖書は教えています。私は、アビド巡査の行動はそのような愛を表していたと信じています。それ故、巡査に敬意を表します」
ICCによると、命までも危険にさらしてキリスト教徒を守った人々に、迫害の渦中にあるキリスト教会がこうした形で感謝の機会を持つことは珍しいという。
「アビド巡査やマンスール隊長をはじめとするナスルシティ爆弾処理班の隊員の皆さん、そしてイマーム・アスカー(イスラム教の指導者)の行動のおかげで、このような機会が与えられました。
これらの方々が速やかに動いていなかったら、教会の屋根は爆発で崩壊していたはずです。その結果、教会にいたキリスト教徒や隣のモスクに来ていたイスラム教徒の多くの命が失われていたでしょう」
一方、エジプトのアブデルファタハ・アル・シシ大統領は、コプト正教会のクリスマスイブである6日、同国最大となる「キリスト降誕大聖堂」の開所式に出席し、アビド氏ために黙祷をささげた。
シシ氏は、エジプトの全国民がテロに対抗して団結していると強調。この日は、隣接するアルファタハ・アルアリムモスクも開所し、「今も今後もわれわれは一体だ」「この国の歴史において非常に重要な瞬間だ」と述べた。