「宣教師」とされる米国人男性が、インド洋のベンガル湾南部に位置するアンダマン・ニコバル諸島(インド領)の孤島、北センチネル島で殺害された。
殺害されたのはジョン・アレン・チャウさん(26)。米ニューヨーク・タイムズ紙(英語)によると、報道を受け、チョウさんの家族は深い悲しみを表明。チョウさんを「愛する息子であり、兄弟であり、おじであり、親友」だったとし、「他の人々にとっては、彼はキリスト教の宣教師であり、タフな救急隊員であり、国際的なサッカーコーチであり、登山家でした」とつづった。
一方、警察当局は、チャウさんを「宣教師」というよりも「冒険家」だとしている。殺害したのは、同諸島の南西部に位置する北センチネル島に住む狩猟部族の一団とされる。北センチネル島は旅行者から隔絶されているが、チャウさんは漁師らの舟で非合法に訪れていたという。
警察当局の情報提供者はロイター通信に対し、チャウさんは過去にも同諸島を訪れたことがあったと話した。当局は、チャウさんが北センチネル島の島民への伝道を強く望んでいたことを把握していたという。
しかし、同諸島の主都ポートブレアのジャティン・ナーワル警察本部長は、インドのニュースサイト「ザ・ニュース・ミニット」に対し、次のように述べた。
「彼は米国のアラバマ州在住で、救急隊員のような仕事をしていました。彼は隔絶された人々に会うために、立入禁止地域で道ならぬ冒険をしていました。人々は彼を宣教師だと思っていました。というのは、彼が神と自分の関係について語り、ソーシャルメディアか何かで(活動する)クリスチャンだと話していたからです。しかし厳密に言うと、彼は宣教師ではありませんでした。彼は冒険家でした。彼の意図は原住民に会うことでした」
警察当局によると、チャウさんは漁師の助けを借りて、16日に島の近辺に到着後、カヌーに乗り換えたという。チャウさんの遺体は翌日、現場に戻ってきた漁師らが発見した。しかし遺体はまだ回収されておらず、島への訪問は禁止されていることから、漁師らは逮捕された。
AFP通信によると、チャウさんは島民たちから矢を射られたが、その後も歩き続けたとされる。漁師らは、島民がチャウさんの首をロープでしばり、引きずっているのを目撃し、恐れて逃げたが、翌朝、遺体を見つけようと海岸に戻ってきたという。
警察は殺人事件と認定している。
北センチネル島の島民は史上最後の新石器時代の部族と考えられており、侵入者は一切受け付けない。2006年にはボートで漂着した2人の漁師が殺されたが、遺体が回収されることはなかった。インド沿岸警備隊のヘリコプターが遺体の回収に派遣されたが、島民らによる矢の一斉射撃に遭い、追い返されたからだ。
観光客は、島から5キロ以内に近づくことを禁じられている。島民は麻疹(はしか)やインフルエンザなどへの抵抗力がないため、外部の人間と接触した場合、死に至る危険がある。
先住民や未接触部族の人権擁護活動を行う「サバイバル・インターナショナル」(本部・ロンドン)の責任者を務めるスティーブン・コリー氏は、「このような悲劇があってはなりません」と述べた。
「部族と外部の人間の双方の安全のために、インド当局は北センチネル島と島民の保護を強化すべきでした。それどころか、当局は数カ月前、北センチネル島を外国人旅行者から守っていた制限の1つを解除してしまいました。それによって誤ったメッセージが伝わりました。今回の惨事にも影響したかもしれません。北センチネル島の島民が免疫不全の致命的な病原体に感染し、部族が絶滅する可能性すらあるのです」