ワーナー・ブラザース映画元製作室長の小川政弘氏(77)と、本紙に多くの映画評を寄稿している青木保憲牧師(50)との対談。第1回は、それぞれの映画との出会い、またキリスト教との出会いについて語っていただいた。第2回は、小川氏の著書『字幕に愛を込めて』の中でも、特にページを割いて取り上げられている二作について語っていただいた。
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「エデンの東」(1955年)
青木:この対談をさせていただく前に、小川さんがユーチューブにアップされていた「エデンの東」の解説(上映前・上映後)を拝聴させていただきました。
小川:ありがとうございます。冒頭でもお話しさせていただきましたように、私は中学2年の時に、映画を通してジェームズ・ディーンという俳優を知りました。彼は三部作「エデンの東」「理由なき反抗」「ジャイアンツ」を残して突然、交通事故で亡くなってしまいました。しかし、彼のスターとしての輝きは決して今でも衰えていないのです。
青木:分かります。私も「エデンの東」はDVDで観ました。2回観ていますが、最初は大学生時代です。その時は「何かなよなよした話だな」くらいにしか感じませんでした。(主人公キャルの)お父さんがあまりに厳格で、腹が立ったくらいです。でも、小川さんの解説を聴き、また『字幕に愛を込めて』を読むことで、得心がいったのです。
小川:そうでしたか。私は生涯を神のために役立てたいと願ったとき、自分がワーナー・ブラザース映画に勤めていて、しかも字幕作成の仕事に携わっている者として、正確に聖書の言葉や話を観客にお伝えしなければならないと思っていました。そうして、中学2年の時に観たこの映画が再公開されることになったのです。その時はもうクリスチャンになっていましたから、この映画には聖書的な構図があるということに気付いていました。だから、監督のエリア・カザン、原作者のジョン・スタインベックが込めたメッセージをきちんと伝えたいと思ったのです。
そして退職後に、映画についてカフェで語るという機会が与えられまして、字幕を改訂したときに気を付けたことや、そこで教えられたことを踏まえて解説しました。それが私の本の中にも収録されているんです。具体的には、父親アダムの厳格さ、しかし病床で生み出される息子キャルへの赦(ゆる)し、その関係性が、聖書における父なる神と私たち人間のことを表しているのですね。
青木:私はこの解説を聴いて、思わず泣きそうになりました。「ああ、映画を観たな」と思わされました。牧師でもここまで見事に解説できないだろうな、と。著書ではこの解説が10ページにわたって再現されていますね。
小川:私が卒業した聖契神学校は、今ではカリキュラムの中に映画の授業があるそうです。毎年有名な映画を取り上げて、聖書に基づいた視点で各自解説してみなさい、という内容らしいです。校長の関野祐二先生がおっしゃっておられましたが、今年(2018年)は「エデンの東」を取り上げたそうです。関野先生にも私の本を差し上げていましたから、先生もこれをお読みくださったようで、「小川さん、私が授業で言いたいことがこの本に書いてあるよ。だから学生たちにはこの本を読みなさい、とお薦めしました」とおっしゃってくださったのです。とても感謝でした。
青木:学生たちがうらやましいですね(笑)。
「JFK」(1991年)
――小川さんの著書では、かなりのページを割いて「JFK」について書かれておられますね。
小川:はい。この作品は私の中で忘れられない一作なんです。上映時間3時間超え、セリフの量が通常の3倍、それでいて納期が通常の半分という、とんでもない条件で完成にこぎつけた作品なんです。
青木:観ましたよ。私が大学3年生の時です。最初は観に行って、圧倒的な情報量に完全にノックアウトでした。でも次の日にまた観に行きました。ラスト40分近いケビン・コスナーの演説を聞きたくて観に行きました。でもいずれも、3時間以上の映画を観ているという感覚はありませんでした。あっという間でしたから。
小川:その感想が聞けてうれしいですね。やはりあのシーンは、勇気、希望、そして信念を描いています。これらすべて、キリスト教国としての米国が本来持っていたものです。
青木:そう思います。しかしあの1960年代に、それらが次第に失われつつあった。そのことを監督のオリバー・ストーンが鬼気迫る情熱を持って作り上げたとしか言えないでしょうね。
小川:それと、劇中でケビン・コスナーが言っていますが、「たとえ今は理解されず、正義が認められないとしても、30年後、40年後の子どもたちの世代になってそれが明らかにされることを願う」という主張は、クリスチャン、ノンクリスチャンに関係なく、観る者の心を打つでしょうね。
青木:そうです。その分野は、今になると私の専門となっていますが、米国という国家にとって、大統領は祭司的な役割を担っているんです。その存在を殺害してもいい、とする考え方は、やはり神の前に通用しない、という主張です。その正義は、普遍的な価値を持っています。
私はこの映画が大好き過ぎて、DVDのディレクターズカット完全版を持っています。先生がこれを監修されたんですよね?
小川:そうなんです。あの時、それをやったかいがありましたね(笑)。(続く)