タイ北部チェンライ県のタムルアン洞窟に閉じ込められていた、地元サッカーチームの少年12人とコーチ1人が、10日までに全員救出され、世界中に歓喜のニュースが伝えられた。その救出でなくてはならない役割を果たしたのが、教会で育てられたアダル・サムオン君(14)だった。息子の無事を祈ってきた両親は、救出の知らせを受け心から神に感謝をささげた。
ミャンマー北東部ワ州で生まれたアダル君は、6歳で教育を受けるためタイに送られた。ワ州は分離独立主義者による暴力が横行しており、地元の武装勢力に少年兵として取られてしまう危険性があるからだ。
米ニューヨーク・タイムズ紙(英語)によると、アダル君の両親は、タイ北部の町メーサイにあったバプテスト教会の牧師夫妻に息子を預け、アダル君はその教会で育てられた。米ワシントン・ポスト紙(英語)によると、アダル君が預けられた教会には、他にも同じような境遇の子どもたちを中心に約20人が住んでいるという。
アダル君が通う学校のパンナウィット・ザプスリ校長は、こうした子どもたちは向上心が強く「闘志」があると話す。「その中でも最高」だったというアダル君は、語学的な才能に恵まれ、生まれ故郷のワ州の言葉だけでなく、タイ語、ミャンマー語、中国語、英語と5つの言語を話す。洞窟に閉じ込められた少年たちのうち、英語を話せるのはアダル君だけで、彼らを最初に発見した英国人ダイバーとコミュニケーションが取れたのは、アダル君がいたからだった。
また、米ウォール・ストリート・ジャーナル紙(英語)が友人や教師の話として伝えたところによると、アダル君は3種類の楽器を演奏でき、バレーボールからフットサルまでさまざまなスポーツで受賞経験があり、成績もオールAと学校トップだった。
一方、そんなアダル君にも問題がある。それは、ミャンマーから正規の手段でタイに渡ってきたのではないため、タイの国籍がないのだ。これは、今回救出された11〜16歳の少年のうち他の2人も、またコーチのエーカポン・ジャンタウォンさん(25)も同じだ。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、タイにはこうした無国籍者が約48万人もいるという。
このような子どもたちを含め、世界中のさまざまな境遇の子どもたちを支援しているのが、キリスト教慈善団「コンパッション」だ。アダル君も支援を受けている1人で、同団体はブログ(英語)に、アダル君の両親のコメントを次のように紹介している。
「こんなにも早く、わが息子を見られるよう助けてくださった神様に感謝します。息子が洞窟から救出され、また家に迎えられることを本当にうれしく思います。これは、神様が私たち家族に与えてくださった愛です。神様は大いなる愛の方で、できないことはありません」
また、コンパッションによると、救出活動に参加したチェンライ県レスキュー学校のスラユト・ペンパダンさん(18)も、同団体から支援を受けてきた1人だ。彼は、少年たちの行方が分からないことを最初に報告した1人であり、救出のために最初に洞窟に入ったチームの1人でもあるという。
コンパッションと協力するチェンライ県内の諸教会では、連日救出活動のために祈祷会を開いた。そのうちの1つであるバーグジョン教会は、タイ国軍に敷地を開放し、食事を提供するなどして、支援活動の拠点としても用いられたという。