イスラエル北部の国境近くにある聖書時代の遺跡で、約2800年前のものとみられる陶磁器製の像の頭部が見つかった。像は旧約聖書に登場する古代イスラエルの王、アハブのものである可能性が高いという。
像の頭部は、旧約聖書に数回登場する「ベト・マアカのアベル(アベル・ベト・マアカ)」(サムエル記下20章、列王記上15章)の遺跡で昨年夏に見つかった。紀元前9世紀の後期鉄器時代のものとみられる。大きさは高さ約5・6、幅5センチの小さなもので、エルサレムにある国立イスラエル博物館で先週から展示が始まった。
発掘チームの主席考古学者であるロバート・マリンズ氏(米アズサパシフィック大学)は、像には手の込んだ特徴が複数あると話す。
像の頭部は黄色と黒に塗られたヘアバンドで艶のある長い黒髪を後ろ向きにまとめており、手入れされたひげを生やしている。アーモンド形の目には、黒い瞳が描かれている。石英を含む練り物で作られているが、銅が加えられているため、表面はほのかに緑がかった艶がある。頭部の形状は格調高いもので、著名な王の像であった可能性があるという。像の胴体は、高さ約20センチから25センチとみられ、発見された頭部は胴体から壊れ落ちたものとみられる。
「顔は小さく無邪気に見えますが、これは滅多に見ることのできない古(いにしえ)の著名人です。古代の書物に記された高位の人物でしょう」とマリンズ氏は話す。
一方、遺跡は3つの古代王国の国境をまたぐ場所にあることから、像の頭部はアラムのハザエル王またはシドン(ツロ)のエトバアル王の可能性もある。「この頭部には王家の謎が表れています」とマリンズ氏。
像の頭部を最初に発見したのは、エルサレム出身の工学部の学生であるマリオ・トビアさんだった。
いずれの王だとしても、3人とも聖書の登場人物であることから注目を集めている。
アハブ王はイスラエルの歴代の王の中でも有力な王の1人であったが、その一方でその邪悪さで広く知られている(列王記上16:30)。アハブ王は預言者エリヤと敵対し(同17章~19章)、王妃はぶどう畑を奪い取るため、ナボテという農民を殺害した悪名高いイゼベルだった(同21章)。
シドンのエトバアル王はイゼベルの父親で(同16:31)、アハブ王との婚姻により、両国間に同盟を結んだ。
アラムのハザエル王は神の命令によりエリヤから王の油注ぎを受け(同19:15)、前任の王を殺害し王座に就いた(列王記下8:15)。ハザエル王は有能な戦士だったとされている。