キリスト教国際NGO「ワールド・ビジョン・ジャパン」(WVJ)と、アジア福祉教育財団難民事業本部(RHQ)は2日、グロービス経営大学院(東京都千代田区)で、難民をテーマにした特別シンポジウムを開催した。「世界難民の日」(6月20日)を前に企画されたもので、若者を中心に約150人が参加。難民問題を身近な課題として捉えるとともに、日本人ができる難民支援は何かを話し合った。
シンポジウムは、難民支援を行う団体などの活動報告と、「『難民とともに生きる』を若者と考える」をテーマにしたパネルディスカッションの2部構成で行われた。
第1部では、主催したWVJやRHQの関係者のほか、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)駐日事務所副代表や国際基督教大学(ICU)教授らが発題。内戦前と後の両方のシリアを知るフォトジャーナリストの安田菜津紀さんは、今年5月にシリア北部を訪問した際、難民の男性から「自分たちを最も追い詰めてきたのは世界の無関心」と話されたことなどを語った。
RHQは日本政府からの委託を受け、約40年にわたり難民の定住支援を行っている組織。企画第1係長の伊藤寛了(ひろあき)氏は、日本が1978年以降、1万2千人以上の難民を受け入れていることを紹介した。その上で難民が日本に定住するには「われわれ一人一人の理解と協力が重要」と語った。
「われわれはグローバルな難民排除主義の時代にある」と話したのは、ICU教授の新垣修氏。主に北半球にある先進諸国が、南半球に多い難民の接近を阻むため「壁」を建造してきたという。「この『壁』は単純な物理的障壁ではありません。厳格な査証制度や軍事力を盾とする阻止、出入国管理権限の一部の私企業への委託などを含む重層的で巧妙な『壁』。財政力や外交力での圧倒的な力を背景に、北は難民を南に結い付けている」と語った。
第2部のパネルディスカッションでは、第1部の発題者5人に加え、難民支援や国際問題に取り組む学生団体の代表者と、インドシナ難民の女性が登壇した。学生団体の2人は「初めは軽い気持ちだったが、『知ってしまった』から難民問題に深く関わるようになった」と、率直に活動を始めるようになった経緯を語った。
一方、仕事として難民問題に関わる安田さんは、「頂きものである『出会い』を通じて、自分は何をしてあげられるのか」という思いが、自身の活動のモチベーションになっていると語った。WVJの緊急人道支援課で南スーダンを担当する中村ゆきさんは、「一人一人の命の大切さを忘れないこと」が活動の動機付けだと話した。
「学生として難民問題にどう関われるか」という質問には、慶応義塾大の公認学生団体「S.A.L.」で活動する高橋英佑さんが「難民としてではなく、人として交流していくこと」と回答。「難民」というカテゴリーではなく「人」として個人の関係を育むことが大切だというメッセージを残して、シンポジウムは閉会した。
世界難民の日:2000年に国連総会で決議された国際デー。6月20日はもともと、アフリカ統一機構(OAU、現在のアフリカ連合=AU)の難民条約発効を記念する「アフリカ難民の日」だった。それが、難民問題への世界的な関心を高めるとともに、UNHCRなどの国連機関やNGOによる難民支援活動を知ってもらおうと改定された。
難民:難民条約による定義は「人種、宗教、国籍、政治的意見やまたは特定の社会集団に属するなどの理由で、自国にいると迫害を受けるかあるいは迫害を受ける恐れがあるために他国に逃れた」人々。今日では武力紛争や人権侵害などから他国に逃れた人々を指すようになっている。国内に留まり避難生活を送る人々は「国内避難民」と呼ばれる。UNHCRの最新の統計報告書によると、2016年末時点で難民、難民申請者、国内避難民を合計した数は世界で6560万人に上る。