マジックや腹話術を通して福音を伝える活動をしている「ゴスペル・タラント企画」が3日、活動開始20周年を記念して、「第11回グッド・ハッピー・タイム」をクロスロード・インターナショナル葛西教会(東京都江戸川区)で開催した。この日は、ところどころに聖書のメッセージが込められたマジックや腹話術が披露されたほか、クリスチャン写真家の森本二太郎さんが特別ゲストとして出演。自身が撮影した国内外の美しい自然の写真を紹介しつつ、信仰の証しを語った。
ゴスペル・タラント企画は、マジック伝道者のカイク加藤さん(葛飾中央教会牧師)と、妻で腹話術師の加藤幸子(ゆきこ)さん(同教会副牧師)が行っている伝道の働き。教会や学校などを訪れ、主に子どもたちに分かりやすく福音を伝えている。東日本大震災後には被災地に何度も訪れ、心のつながりを求める現地の人たちに、楽しみのひとときを提供してきた。グッド・ハッピー・タイムは20年前に活動を開始してから、ゴスペル・タラント企画が毎年1回開催してきた伝道イベント。途中ブランクが空いてしまったが、今回、20周年を記念して10年ぶりに開催した。
最初は、腹話術歴40年の幸子さんが、長年連れ添う相棒のキラちゃんと登場。「神様を信じている?」と問う幸子さんの質問に、キラちゃんは「(神様がいるのに)大雪や地震、いいことばかりじゃないじゃない?」と問い掛ける。キラちゃんの率直な質問に、幸子さんが答える。
「でも聖書には、神様の計画は災いを与えるためのものではなく、人々に平安を与え、将来を与え、希望を与えるものだと書いてあるのよ」
また、履歴書には学歴や職歴を書くが、人を形作るのは悲しい経験、苦しい経験という「苦歴」だと、故・渡辺和子氏が本に書いていたと紹介。「私たち一人一人には苦歴がある。本当の喜びを知るためにはそれが必要。その人を形作る苦歴があるのよ」などと、キラちゃんと笑いのある会話をしながらも、人生について深く考えさせるメッセージを伝えた。
続いて、カイクさんがマジックを披露。紙で作ったハトを本に挟むと、本物のハトが飛び出したり、金属製の3つのリングを切断することなくつなぎ合わせたり、解いたり、また、詩編23編の神の祝福をイメージして、大量のブドウジュースをこぼれることなく小さなコップに入れたりと、次から次へ繰りなすマジックに観客は釘付けになった。また、カイクさん・幸子さん夫婦の孫2人も登場し、金属製の筒から大きな花束を出すなど、カイクさん直伝のマジックを披露した。
この日、特別ゲストとして出演した森本さんは、15年間の教師生活の後、フリーの写真家として活動するようになった。これまで、新潟県の妙高高原や長野県の八ヶ岳、浅間山など、厳しくも美しい自然を撮影できる山麓(さんろく)で長年暮らしてきた。しかし、年齢を重ねた義母の心配などもあり、数年前に岡山県新庄村(しんじょうそん)に移住。終(つい)の住処に選んだ場所は、耕作放棄されてから30年余りもたったリンゴ園だった。
今でも庭にはリンゴの木が幾つか残っており、春には花を咲かせる。リンゴの花の色は白。しかし、つぼみの時は鮮やかな濃いピンクをしている。ある天気の良い朝、ピンクのつぼみを見ていると、1時間ほどであっと言う間につぼみが開き、中から白い花びらが出てきた。躍動するリンゴの花を見て「本当に生きている。これは本当に神様のマジック」と思ったという。
森本さんが現在住む新庄村は、岡山県の西北端に位置する人口千人ほどの村。平成の大合併時にも合併することなく、小・中学校も「村から子どもの声がなくなってほしくない」という住民の思いから、近隣の学校と統合することを選ばなかった。住民が1つになって支えるこの学校に評議員として携わる森本さんは、教員と生徒のコミュニケーションが良く取れていて、「宝のような関係」があると評価する。
そんな小さな村の学校で、とても興味を引くアンケートがあるという。それは、「家庭学習は良くしているか」「食事の時には『いただきます』と言うか」など、さまざまなテーマについて問う年2回のアンケート。特徴は、保護者と子どもに同じ内容の質問をすることだ。
親子でほぼ同じ評価になる質問がある一方、大きく評価が分かれる質問もある。評価が分かれるのは、家庭学習や宿題、家での生活態度などについての質問だ。子どもたちは高評価をつける一方、親は厳しい評価をつけるという。
自身も1人の親として経験した子育てを振り返り、「自分の考えに従って、良い子に育てたいという思いが強くあった。『親眼鏡』を掛けて、子どもたちを見ることが多かった」と言う。親子で異なったアンケート結果は、親たちが「親眼鏡」を掛けて、子どもたちを評価していたからではないかと問い掛けた。
「心の扉を開いて相手を受け入れることはとても難しい。では、眼鏡を外して見るのはどうでしょうか。一度、自分の判断基準である眼鏡を外して見てみると、思いがけない真実が見えてくる可能性がある」
近年、老眼鏡を掛けるようになったという森本さんは、近くを見るときはとても役立つが、遠くを見るときはない方がいいなどと例えを話し、「私たちが普段掛けている『眼鏡』は非常に限定的な価値基準でしかないのでは」と問い掛けた。
森本さんの話の後、カイクさんが20年にわたってゴスペル・タラント企画を続けられたことを感謝。最後には、2人の労をねぎらい花束の贈呈も行われた。