東京都世田谷区の閑静な住宅街の中にある児童養護施設「東京育成園」。同じ系列の保育園、幼稚園が同じ敷地内にある。日中は、保育園や幼稚園の子どもたちの声がにぎやかに響き渡っている。一方で児童養護施設内は、子どもたちがそれぞれ学校や幼稚園に行っているため、静まり返っている。
同園は、マタイによる福音書25章40節「わたしの兄弟であるこの最も小さい者の一人にしたのは、わたしにしてくれたことなのである」の御言葉に応答し、最も小さい者の1人である子どもたちをありのまま受容し、愛することを使命としている。また、子どもの最大の願いは養育者の元に帰ることである。その願いをかなえるため、家庭再統合に力を入れている。
同園の歴史は古く、今年で創立から121年目を迎える。家庭的な養護施設の先駆的事例として、研究や研修などを目的とした各方面からの見学者は後を絶たない。1896年の明治三陸地震で両親を亡くした26人の子どもたちを、北川波津さんが私財を投じて救済したのをきっかけに設立された。
現在では、両親ともに死別した子どもはほとんどなく、虐待、貧困、養育者の病など、何らかの理由によって養育者と一緒に生活できなくなった2歳から18歳までの子どもたち52人が同園で暮らしている。
年齢別の小舎制施設になっていて、一般家庭と同じく子ども部屋があり、キッチンやダイニング、家庭用のお風呂がある。子ども部屋は年代によってさまざまだが、兄弟のように2段ベッドを使用し、机を2つ並べた2人部屋、中学生になると1人部屋に移る。
食事は、給食室で調理を終えたものを小舎のキッチンに運び、盛り付けなどは子どもたちと共に職員が行う。月に数回、子どもたちからのリクエストを聞き、買い物、調理、盛り付けまでを小舎ごとに行う日もある。
「お母さんやお父さんと一緒に買い物に行くといった経験や『今日はハンバーグが食べたい!』といった食事をリクエストして、食べたいものを食べるといった経験が、ここにいる子たちには少ないのです。できる限り、学校や幼稚園のお友達が普通にしているようなことを、ここの子どもたちにも経験させてやりたいと思っています」と同園長で上馬キリスト教会牧師の渡辺俊彦氏は話す。
小舎での生活は、一般の家庭と変わりなく、朝食を食べ、身支度を整えると、それぞれ幼稚園や学校に登園、登校する。「ただいま」と玄関を開けると、職員が「おかえり」と出迎え、急がされながら宿題を終える。その後は、友達と遊びに行ったり、部屋で本を読んだり、ゲームをしたりなど、思い思いに過ごす。
夕飯を食べると順番にお風呂に入る。小さな子どもは、同性であれば職員が一緒に入って背中を流すこともあるという。日曜日には、同敷地内にあるチャペルで礼拝をささげ、クリスマスには関係者を招いて聖誕劇なども披露する。
「当園の子どもたちの中には、親からの愛を十分に受けずに育ってしまった子どもたちもたくさんいます。自分が神様から愛されているということは、人から愛され、人を愛した経験がないと、なかなか理解することはできません。人は愛されたように人を愛し、人に愛されて満足し、人を愛して充足します。そして、人は愛されたようにしか人を愛せません。人から十分愛された人は、神の愛を知り、神を愛する者に変えられるのだと思います。当園では、できる限りの愛情を注ぎ、子どもたちが早く両親の元へ帰れるようサポートしていきたいのです。ここに仲の良いお友達がいても、大好きな職員がいても、大きなお部屋があっても、子どもたちが帰りたい場所は、お父さん、お母さんの居る場所なのです」と渡辺氏は話す。
また、同園では地域との連携も欠かさない。地域の小中学校はもちろんのこと、行政や警察などとも連携している。小中学校の運動会などでは、率先して係を引き受け、子どもたちの保護者代わりとなって運営を助ける。友達と環境が違い、児童養護施設から学校に通っていることも、子どもたちは自然と受け止め、職員たちと学校行事に参加し、時には小舎に友達を連れて遊んでいることもあるという。
「子どもたちが成長する過程で、親との時間は大切なものです。その子の人生に関わる大事な時期といってもよいでしょう。しかし、親と一緒に過ごすことが許されない子どもも世の中にはいるのです。ここの子どもたちは、それだけで十分傷ついています。私たちは、その傷が深くならないように祈りつつ、日々の勤めをしていきたいと願っています」と渡辺氏は話した。
同園では、園内で使用する食料品、洗剤、タオル、トイレットペーパーなどの日用品の献品を受け付けている。詳しくはホームページ。