フィリピンのミンダナオ島に、日本人カトリック信徒が運営する児童養護施設「ハウス・オブ・ジョイ(HOJ)」がある。4歳から18歳までの子どもたちと共に現地で生活をしている副院長の澤村信哉さんは、年に一度日本に戻り、各地で支援を呼び掛ける講演活動を行っている。14日、約1カ月の帰国の最後となる講演会「ハウス・オブ・ジョイの集い」が、カトリック高円寺教会(東京都杉並区)で開かれた。会場には、ボランティアスタッフとしてHOJで働いていたことがある、HOJのゲストハウスに滞在したことがあるといった人々が多く集まり、再会を喜ぶ声があちらこちらで聞かれた。同窓会のような温かい雰囲気の中、澤村さんはHOJの来歴や現状について説明し、「子どもたちだけでなく、支援者にとっても楽しいと思える援助の仕方を引き続き提案していきたい」と話した。
HOJで生活している子どもは現在18人。多い時には40人以上にもなることを踏まえると、少ないといえる数だ。澤村さんに事情を聞くと、この1年の間で、フィリピン国内で起こった変化を教えてくれた。国の景気が良くなり、実家に帰れる子どもたち、親戚に引き取られる子どもたちが増えたのだという。子どもたちは、さまざまな形でHOJを巣立っていくが、大きく分けると、家族や親戚と再び暮らせるようになる、18歳で卒業し自立していくという、2つの道がある。HOJでは、子どもたちの親戚を探す調査や、卒業する子どもたちの就職や進学のサポートを行い、貧困の連鎖を断ち切るために力を尽くしている。最近では、独立した卒業生の生活が安定し、弟や妹を引き取りにくる新しいケースも増えてきたそうで、「これ以上にうれしいことはない」と澤村さんは話す。
しかしその一方で、景気が良くなっても家に戻ることができない子どもたちが依然として存在すると、澤村さんは顔を曇らせる。政府は教育改革や生活保護プロジェクトを進めているが、次々と整備されていくシステムから漏れてしまう子どもたちがいる。例えば、読み書きができない両親のもとに生まれた子どもが、書類によって名前のスペルがまちまちなため、身元の証明をすることができず、学校に受け入れを拒否されてしまうという事例が発生しているという。
HOJを取り巻く環境は日々変化しているが、「子どもたちのためにという一番の目的を大事に」するHOJのあり方は1997年の設立当時から変わっていない。親に捨てられ、大人への不信感でいっぱいだった子も、親に虐待され、笑うことを知らなかった子も、食事や寝る場所を与えられ、学校に行き、家事をし、祈るという規則正しい生活を送る中で、そして何より多くの温かい仲間と出会ったことによって変えられていった数々の奇跡のようなエピソードが、HOJにはある。HOJは、「歓びの家」というその名の通り、喜びの笑顔が溢れる、笑い声の絶えない明るい場所だ。
澤村さんの講演の後、ちょうど遠足に出掛けているという現地の子どもたちとスカイプで話をする時間が設けられたが、誰の声か判別がつかないほどの、大きなあいさつの叫び声がスピーカーから聞こえてきた。それというのも、会場には、子どもたちが実際に会ったことがある、記憶にある懐かしい顔がたくさん見受けられたのだ。HOJの運営に必要な年間約800万円の資金は、日本や世界各国からの支援者の寄付に大きく支えられているが、「かわいそうだから」というのではなく、「一緒に作り上げていこう」という楽しい気持ちで援助を提案していくのがHOJのモットーだ。それら数ある支援プロジェクトの中でも、一番の目玉になっているのが「遊びに来ませんか!?」というゲストハウスプロジェクトだ。
HOJのあるミンダナオ島は、一年中が夏のような気候で、農業と漁業がさかんなのどかな島。海が非常に綺麗だが、観光開発がなされていないので、美しいビーチを独り占めできる贅沢な場所だという。HOJに遊びに行くと、敷地内にあるゲストハウス、または近くの漁村にあるシャロームハウスに宿泊することができ、現地の人たちの穏やかな暮らしを体験したり、子どもたちと交流をすることができる。その滞在費用が、HOJの運営費として用いられるという仕組みだ。小さい子どもを連れた家族から、学生、退職後の旅先にと、幅広い年代の人々が実際に足を運んでいる。
夫婦で1週間滞在したという50代の女性は、その時の思い出を話してくれた。絵を描くのが得意な澤村さんが、「出稼ぎ」と称して日本の観光地で似顔絵描きをしているところで出会い、強く心惹かれたというその女性は、夫の退職を待って3年越しの思いを温めて現地に向かったそうだ。「物質的にはすごく貧しいけれども、精神的にはすごく豊かで幸せなところだった。子どもたちの笑顔や、現地の人たちの歓迎に感動した」と言い、「また来年行く予定を立てている。ぜひ、行ったほうがいい」と、声を弾ませていた。
澤村さんは、この集いの翌々日にフィリピンの子どもたちのもとへ戻ったが、今回の日本での滞在を振り返って「本当に多くの人に支えられているんだということをあらためて感じた」という。また、各地の学校で話をすると、小学生から大学生までが熱心に耳を傾ける姿を目にしたそうで、「学生だけでなく先生も、国際化というのが具体的にはどういうことか模索していて、こういった話や体験に飢えているのを実感した。もっと情報を発信していけたらと思う」と、確かな手応えが感じられたことを話してくれた。
「ハウス・オブ・ジョイ」について詳しくは、ホームページ。