米デトロイトなどでイラク人移民200人近くが拘束され、強制送還される恐れがあることを受け、米国の福音派指導者らが、ジョン・ケリー国務長官に懸念を伝える書簡(英語)を送った。拘束された移民の中にはキリスト教徒も多数おり、「米国からキリスト教徒を排除することで、彼らを迫害や死にさえも直面させてしまう深刻な懸念があります」と訴えている。
ロイター通信(英語)によると、米移民税関捜査局(ICE)は6月上旬、デトロイトで一斉取り締まりを行い、イラク人移民114人を拘束した。その前の数週間には、他の地域で85人を拘束している。デトロイトで拘束されたのは、犯罪歴のある人々だとされているが、そのほとんどがカルデア典礼カトリック教会の信徒だという。
書簡はこのニュースが伝えられた直後に出され、「このところ、多くのカルデア典礼カトリック教会のキリスト教徒が、即座にイラクへ国外退去させられる脅威に直面していることが伝えられています。イラクにおいては、キリスト教信仰を持つ者は、過激派の手によって抑圧され、迫害され、そして殺されることさえあります」と、イラクへ強制送還された場合の危険性を強調している。
「有罪判決を受けた一部の人による重大な犯罪を軽視するのではありません。その犯罪のために、彼らが処罰されるのはまったく適切なことです。しかし、彼らにその刑を言い渡す一方で、私たちは、米国の一般大衆に対して大きな危険性を持っていない人を、その信仰のために著しく危害を受ける可能性のある場所へ、単に国外退去すべきなのかを真剣に考える必要があります」
ドナルド・トランプ大統領は自国や海外における宗教の自由を促進する姿勢を示しており、書簡はそうした姿勢に訴える内容となっている。
「私たちは、トランプ政権が法の下で可能な限り慎重に対応し、イラク情勢が安定化し、イラク政府が宗教少数者の権利を守ることができるようになるまで、米国の治安に対する脅威を持っていないイラク人キリスト教徒の国外退去を延期するように求めます」
「私たちは、彼らがキリスト教徒であろうとなかろうと、米国人の安全に対して脅威とならない限り、そして国外退去をした結果、彼らが迫害や拷問、死に至るような状況に遭うのであれば、誰に対しても同じように対処するように要請します」
書簡は、米国福音同盟(NAE)やワールド・ビジョン、南部バプテスト連盟(SBC)倫理宗教自由委員会などが加盟する福音派移民協議会(EIT)が出したもので、賛同する一部の各機関の代表者が署名している。
署名者の1人である、SBC倫理宗教自由委員会のラッセル・ムーア委員長は書簡とは別に、イラク人キリスト教徒にとって国外退去は「最悪の死刑宣告」に等しいものだ、とツイッターに書き込んでいた。
また、早くからトランプ大統領を支持する立場を示していた、ビリー・グラハム伝道協会総裁のフランクリン・グラハム牧師も、この件に対しては懸念を示した。
「国外退去させるために、カルデア典礼カトリック教会のキリスト教徒をICEが一斉に拘束したという記事を読み、私は大変心が痛んでいます。私はこうした件に関してしっかりと調査してもらうよう、大統領を説得しようかと思っています。米国に不法に滞在し、法を犯している人々を国外退去させる政策は理解できます。しかし、詳細のすべてを把握しているわけではありませんが、イラクのような国々のキリスト教徒が国外退去させられることによって、彼らの命が脅威にさらされることに対しては配慮するよう、大統領に言いたいと思います」
この問題をめぐってはその後、デトロイトのあるミシガン州連邦地裁が6月26日、米国内で身柄を拘束されているすべてのイラク人移民に対し、送還先の母国で命の危険にさらされる可能性があるとして、強制送還の一時差し止めを命じている。
一方、米連邦最高裁は同日、施行が差し止められていたトランプ大統領の大統領令を、条件付きで認める判断を下した。大統領令は、中東・アフリカのイスラム圏6カ国からの入国を90日間、移民の受け入れを120日間禁ずるもの。最高裁は、米国内に親族がいたり、米国内の学校や企業に通う学生・従業員であったりする場合など、米国内の人物や組織と「正当な関係」を証明できる人については対象外とすることを条件に施行を認めた。これを受け、大統領令は29日から施行されている。