ドイツ連邦議会は6月30日、同性婚を合法化する法案を賛成多数で可決した。牧師の娘でもあるアンゲラ・メルケル首相は、結婚は男女間のものであるべきだとする個人的な考えに基づき、反対票を投じたが、結果を受け「今日の投票が、異なる意見を尊重する態度を促進するだけでなく、社会にまとまりと平和をもたらしてくれることを願っています」と語った。
ドイツではこれまで、同性カップルに対して「シビル・ユニオン」(市民婚=結婚に準じた権利を認める制度)は認められていたが、今回の法案が可決されたことで、子どもを養子にするなど、結婚に伴うすべての権利が認められることになる。
法案は、賛成393、反対226、棄権4で可決。左派政党や同性愛者の権利擁護家らは結果を歓迎した。結婚の平等を求める活動家のスーレン・ラントマン氏は、「これは本当に、ドイツにとって歴史的な日です」と語った。
ドイツ福音主義教会(EKD)の牧師を父に持つメルケル首相は採決後、記者団に対して、「私にとって、基本法の結婚は男女間のものです。そしてこれこそ、私が今日、この法案に賛成票を投じなかった理由です」と語った。一方、メルケル首相は、これが個人的な決断であることを強調した。
政府の調査によると、国民の8割以上が同性婚の合法化を支持していた。だが、メルケル首相が党首を務めるキリスト教民主同盟(CDU)と、会派を組むキリスト教社会同盟(CSU)は反対の立場。野党はすべてが同性婚を支持しており、連立を組むものの、同性婚については立場が異なっていた社会民主党(SPD)は25日、同性婚に対する方針について合意できない場合、連立を解消することも示唆していた。
このような中で、翌26日にドイツの女性誌が主催するイベントに出席したメルケル首相は、各議員が自身の良心に基づいて投票するべきだという考えを表明。同性婚反対に対し党議拘束をしない方針を示唆した。イベントでは、地元の選挙区で8人の子どもを育てるレズビアンのカップルと食事をしたことも明かし、「心に残る経験」だったと話した。採決後には、同性カップルが養子を迎えることが、合法的に認められるべきだと確信するようになったとも語った。
一方、ドイツでは9月末に総選挙が予定されており、同性婚が争点となることを避けるため、今の時期に方針を変更したとの見方もある。
今回の採決に対し、一部の保守派やカトリック教会は批判の声を上げている。
CDU元党員で、現在は無所属のエリカ・シュタインバッハ議員(73)は、「これは、結婚が男女間のものであるとするCDUの綱領に反します。CDUの決定は、明らかに紙くず同然に価値がないものです」と強く批判。「これがどれほど不快極まることであるかを、これ以上大げさに言うことは難しいでしょう」と語った。シュタインバッハ議員は、移民受け入れに関するメルケル首相のリベラルな政策をめぐり、今年1月にCDUを離党している。
ベルリン教区のハイナー・コッホ大司教は、ドイツのカトリック教会を代表して、「同性愛の共同生活に対する理解は、これとは異なる形の制度によっても表すことができます」とコメント。ドイツ連邦議会の決定を遺憾だとした。
法案は7月7日以降、フランクワルター・シュタインマイアー大統領の署名を経て成立する。