2014年夏、過激派組織「イスラム国」(IS)によって制圧されたイラク北部の町から逃れる際に、ISの戦闘員に連れ去られた当時3歳だった娘を、キリスト教徒の母親が必死になって捜している。
中東の衛生テレビ局「アルアラビヤ」(英語)によると、この母親は現在、イラク北部にあるクルド人自治区の中心都市アルビルに住んでいる。アルビルには今、ISがイラク第2の都市モスルとニネベ平原地帯を制圧した14年夏ごろ、5万人以上のキリスト教徒が住んでいた町カラコシュから逃れてきた人々が多く暮らしている。
しかし、「クリスティナの母」と呼ばれているこの女性は、末娘の大きな写真を持って、あちこちの難民キャンプを渡り歩き、最愛の娘を捜している。
この一家は14年7月、ISから人頭税を払わなければ殺すと脅されたために、故郷を離れることを決めた。その時、ISの戦闘員の1人が、母親の背中におんぶされていた当時3歳のクリスティナちゃんを、はぎ取るようにして連れ去ったのである。母親は娘を返してほしいと交渉しようとしたが、いまだに行方は分かっていない。
アルアラビヤの「デス・メーキング(死の製造)」という世界のテロを扱う番組で取り上げられたこの母親は、当時の恐ろしい経験を次のように述べている。
「夫は目が見えず、体調が悪くて逃げられない状態だったのです。私は上の子どもたちを町の人々と一緒に逃げさせ、夫と末娘のクリスティナと町に残りました。ISが残忍だといっても、3歳の娘に危害を加えることはないだろうと思ったのです」
ISが占領する前に逃れられなかった他の多くのキリスト教徒と同様に、クリスティナちゃんの母親も、ISがキリスト教徒に対し、侮蔑的な振る舞いをすることをすぐに知ることになる。
「私たちは、イスラム教に改宗するか、キリスト教徒やイスラム教以外の信者に課される人頭税を支払うか、町を出ていくかと言われたので、考える時間が欲しいと言ったのです」
結局、3人で町から出ていくことにしたが、病状が回復しつつあった夫を連れ、娘を背負って町を出ようとした矢先に、クリスティナちゃんが捕らえられてしまった。「私はカラコシュまで戻らなければなりませんでした。私は娘を返すように懇願しました」
その後数日して、母親は偶然、カラコシュに駐留する部隊長をしていた、ISのチュニジア人戦闘員がクリスティナちゃんを膝の上に座らせているのを目撃した。
「私は泣いて娘を返すように訴えました。ところが、その部隊長は戦闘員の1人に私を追い出すように命じました。その武装した戦闘員に、あと1日でもこの町にいたら、処刑すると言われました。私は夫と共に心臓が飛び出さんばかりに、悲痛な思いをしてその場を去ったのです」
約3年たった今も、両親はクリスティナちゃんと再会できずにいる。アルアラビヤによれば、母親はモスルとカラコシュの仲裁人を通して解放の交渉をしようとしたが、無駄に終わったという。幸いに、クリスティナちゃんの最近の写真を手に入れることはできたが、消息はいまだに分かっていない。
クリスティナちゃんが今後どうなるかは分からないが、ISはイスラム教徒以外の少女や婦人を奴隷にするといわれており、性奴隷としてISの戦闘員たちの間で売り買いするともいわれている。最近では、ほぼ3年間ISの奴隷状態に置かれていたヤジディ教徒の婦人や若い女性たち36人が救出された。
国連イラク支援ミッション(UNAMI)のリズ・グランデ特別副代表は、中東の別の衛星テレビ局「アルジャジーラ」(英語)に、「この婦人たちや若い女性たちがこれまでずっと耐えてきた仕打ちは想像を絶するものがあります」と述べた。