インドネシアの首都ジャカルタ特別州の知事で、キリスト教徒のバスキ・チャハヤ・プルナマ氏(50)が、イスラム教に対する冒とく罪で告発された事件で、ジャカルタの地方裁は9日、禁錮2年の実刑判決を言い渡した。
「アホック」の愛称で知られるバスキ氏は昨年9月、再選を目指す知事選の選挙運動中にイスラム教の聖典、コーランの一節に言及したことが発端となり、冒とく罪に問われた。知事に反発する人々は、イスラム教徒が非イスラム教徒に治められるべきではないとする主張の根拠に、コーランの一節を使っていた。バスキ氏は、こうした人々がこの一節を同氏に対する反対票を投じさせるために使っているという趣旨で発言をしたが、その表現がイスラム教に対する冒とくに当たるとして問題化した。バスキ氏の発言の一部がインターネット上で拡散し、約50万人もの人々を動員する反対デモにまで発展した。
検察側は禁錮1年、執行猶予2年を求刑していたが、北ジャカルタ地方裁はこの日、求刑を上回る予想外に手厳しい判決を下した。判事の1人、ドワイアルソ・ブジ・サンティアルト氏は、「宗教的社会においては、被告人自身の信じる宗教を含め、宗教全般に使われる用語の否定的側面を持つ語を使用しないように気を付けなければならない」と語った。
別の判事、アブダル・ロシアド氏は、「実刑判決が出されたのは、アホックが『不安をかき立て、イスラム教徒を傷つけた』にもかかわらず、全く罪の意識を感じていないからだ」と述べた。
バスキ氏は4月に行われた知事選で、イスラム教徒のアニス・バスウェダン前教育・文化相(47)に敗れ、10月には職務を新知事に引き継ぐことになるが、控訴する意向を示している。
人口の9割近くをイスラム教徒が占めるインドネシアでは、キリスト教徒に対する圧力が次第に強まっており、民族的にも少数派である中国系のバスキ氏は、不利な立場にある。バスキ氏の裁判は、政治的思惑とは別に、人権活動家による懸念材料としても取り沙汰されている。
国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」(HRW)のインドネシア責任者であるアンドレアス・ハルソノ氏は、英ガーディアン紙(英語)に対し、「インドネシアにとって悲しい日となった」と語った。
「アホックの事件はインドネシアの歴史上最大の冒とく事件です。彼はインドネシア最大の都市の知事で、大統領の支持者です。もし彼の投獄が許されるのであれば、他の人はどうなるでしょうか?」
ハルソノ氏は、インドネシアでは過去10年間に100人以上が冒とく罪で訴えられ、無罪となることはないに等しいと述べ、インドネシアの人権状況に懸念を示した。