ドイツであった、ある青年のお話です。この青年は一つの画廊を訪ねて、沢山の絵を鑑賞していましたが、突然立ち止まってしまいました。其の場所に描かれていた一枚の絵と文章が、彼の心を捉えたのです。見るうちに益々心が捉えられて、この画の前に釘づけになって見ていました。立ち止まって、もうその他には何も見えなくなっていました。
館内を回っていた管理人は、長い間熱心にその絵に見入っているこの青年に気づいていました。そうして、とうとう閉館の時間が来てしまったので、管理人が、そっと彼に近寄って行き、優しく手を肩に載せて、「もう時間ですよ」と声をかけ様として、気が付きました。青年は涙を流していたのです。青年の前の絵には、一枚の屠られた子羊の絵が描かれていました。そしてその下に、こう書いてありました。「この一切を、あなたのためにわたしはした。あなたは、私のために何をしたか」と。――青年は神様の御霊に触れられていたのです。その名はニコラス・フォン・ツインツェンドルフという人で、後にモラビア兄弟団という組織を作って、神様により近くと願う世界のクリスチャンに大きな影響を与えました。この時お会いしたキリストに、彼は一生お仕えしたのです。