韓国宗教平和国際事業団(IPCR)と韓国宗教人平和会議(KCRP)が主催する「IPCR国際セミナー2016」(世界宗教者平和会議[WCRP]日本委員会共催)が9月2日から4日までの3日間、「東北アジア平和共同体構築のための課題」をテーマに、立正佼成会横浜普門館(神奈川県横浜市)で開催された。最終日の閉会セッションでは、WCRP日本委員会平和研究所所員で同前所長の眞田芳憲氏(中央大学名誉教授、ローマ法・イスラム法・比較法文化論)がまとめのあいさつを行った。
「このじゅうたんに彩られている蓮の花は、仏教では妙法蓮華経という大乗仏典があり、泥沼の中に咲いている。私たちの現実は、残念ながら、世界中どこへ行っても、法華経の言葉を使うと、火宅で火がボンボン燃えて焼き殺される中にいながらそれに気付かなくて、なおかつ戦争し争い殺し合っている世界だ。今日私は、この泥沼の中にあってどういうふうにしたら幸福・平和・安寧を実現できるかというお話を頂戴した」と、仏教徒である眞田氏は語った。
眞田氏は、「もし前にあるこの花がみな同じ花であったら、われわれはこの花を美しいと思うでしょうか? 違いがあるからこそ尊いのであろうと思います。違いがあって、その違いに気付いて精いっぱい命を輝かせて他者を思いやる。そこで見事な調和というものが生まれて、平和というものがそこに花を開くのではないでしょうか」と問い掛けた。
眞田氏はまた、「人間というものは何だろうか。人間の獣的なものを霊的に変え、いつも相手を思いやり、相手の平和を考える、そういう神聖な霊的な性格を持っているのであろうと思う。仏教で言えば仏性、キリスト教で言えば神性ということになりましょうか。その霊性の花を開かせるのが宗教者の役割であろうと思います」と語った。
「ユネスコ憲章の前文は、『戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない』という言葉から始まる」と眞田氏は語るとともに、仏教における貪(とん)欲・自分勝手な怒り・無知(貪・瞋・癡[とん・じん・ち])という3つの毒に言及し、「この心が戦争を起こす。この心を清めるのは宗教だと思います」と述べた。
眞田氏は、ユネスコ憲章の前文に「政府の政治的及び経済的取り決めのみに基づく平和は、世界の諸人民の、一致した、しかも永続する誠実な支持を確保できる平和ではない。よって平和が失われないためには、人類の知的及び精神的連帯の上に築かなければならない」とも書かれていることに触れ、「まずわれわれが連帯することから始めなければならないのではないか」と喚起。その上で、「東北アジアの平和共同体の構築は、今ここに、既に現実に存在している。自分たちの足下から始めて、一つ一つ園輪を広げていくということが尊いのではないか。そういう意味でこのセミナーが持つ意義は極めて大きいと思っている」と強調した。
眞田氏は、このセミナーの報告書が今後出されることについて「これを日本の人々に広く伝えなければならない。中国の方々や韓国の方々がどう考えて何を求めているのか、その生の声を正しく伝えていかなければならない」と述べた。また、「ヘイトスピーチということが言われているが、まず相手を理解すること。理解をしないから誤解が生み出される。誤解が出ると意見の不一致が生じる。意見の不一致が生じると争いが発生し、戦争が生じる」と述べ、「何よりも対話の場を共にすることが重要である」と主張した。
眞田氏は今後のIPCRセミナーについて、「われわれはここに北朝鮮の宗教者をどう参加させるのか? 政治の壁を越えるのが宗教者の役割である。その意味で、中国の先生方のご努力をお願いして、北京で開催されるのを強く乞い願っている」と語るとともに、「女性の声をこの場で反映させたい」と付け加えた。
「IPCRセミナーをさらに発展させていくためには、互いに知恵を出し合いながら、もっと有効なセミナーにしたい。(日中韓)3国の先生方がお互いに努力し協力し合いながらこのセミナーが発展できることを心から願っている」と眞田氏は結び、参加者やセミナー関係者に感謝の意を表した。
なお、過去に行われてきたIPCR国際セミナーの記録として、新刊本『東北アジア平和共同体構築のための課題と実践「IPCR国際セミナー2013」からの提言』(山本俊正監修、WCRP日本委員会編)が、2016年8月に佼成出版社から出版されている。また、同社からは『東北アジア平和共同体構築のための倫理的課題と実践方法―「IPCR国際セミナー2012」からの提言』 、2012年には『東アジア平和共同体の構築と宗教の役割 「IPCR国際セミナー2011」からの提言』(山本俊正監修、WCRP日本委員会編)、2011年には『東アジア平和共同体の構築と国際社会の役割――「IPCR国際セミナー」からの提言』(眞田芳憲監修、WCRP日本委員会編)もそれぞれ出ている。