韓国宗教平和国際事業団(IPCR)と韓国宗教人平和会議(KCRP)が主催する「IPCR国際セミナー2016」(世界宗教者平和会議[WCRP]日本委員会共催)が9月2日から4日までの3日間、「東北アジア平和共同体構築のための課題」をテーマに、立正佼成会横浜普門館(神奈川県横浜市)で開催された。3日目にはセッションⅢとして「人と人とのつながりと平和共同体」をテーマに話し合いが行われた。
コーディネーターを務めたパク・ヒョンド氏(韓国・明知大学校教授、「宗教と平和」編集責任者)は、「私は日本や中国に来るときに、なぜ顔は似ているのに韓国語をしゃべらないのかと思うことがあるんですね。ですから似たような人は、言葉は違うけれども、平和共同体を作る上で、違った顔かたちの人よりも作りやすいという気がいたします」と語った。
続いて、最初のスピーカーであるレイ・シンイン氏(中国カトリック協会副会長、司教)が、「人々の心が通じ合い、運命を共にし、共に平和を建設しよう」と題して発題した。レイ氏は、「宗教には、人を教育・感化したり、仲良く暮らしたり、平等に付き合い、仁愛・慈悲を施すなど多くの通じ合うところがあります」と語り、その例として、キリスト教において自らや他人・自然、そして神との調和をとることについて述べた。
レイ氏はまた、昨年12月8日に教皇フランシスコが「いつくしみの特別聖年」に関する一般謁見演説で語った内容に言及し、宗教文化の中で「調和のとれた、平和、いつくしみ、仁愛の理念と思想を深く掘り起こすことは、東北アジア平和共同体の構築を促進するのに非常に必要であります」と主張した。
レイ氏は、聖書の創世記1、2章、同2章7、8節、コリントの信徒への手紙12章12~26節、ローマの信徒への手紙12章4節に触れ、人類にとっての「1つの体」について説いた。
レイ氏はまた、「『共同体』の理念で東北アジアの平和を構築すること、これは素晴らしい提案です」と述べた。その上で、東北アジア平和共同体を築き上げるには、1. 各国の相互尊重、平等のもてなし、2. 協力・ウィンウィン、共同発展、3. 共同・総合・協力・持続可能な安全保障、4. 包容、交流、相互学習の精神、という4つを提唱しなければならないと述べ、交流・相互学習の例として卓球の福原愛選手が長期にわたって中国で訓練していたことなどを挙げた。
「中国にとっては調和のとれた安定的な国内環境と平和で安寧な国際環境が最も必要であり、いかなる激動や戦争も中国人民の根本利益に合致していません」とレイ氏は語った。
レイ氏は、「全ての人が少しでも愛をささげれば、世界は素晴らしい世の中になるでしょう。私たちは各自で異なる宗教の言葉で、愛を宣(の)べ伝え、愛を生き、愛を伝えていきましょう。私たちは互いに努めて、人心が通じ合うように促進し、国家間の平和共存、共同発展のために、共に民意の基礎を固め、さらに団結し、調和のとれた、平和な環境を築き上げます。われわれは一心同体で、東北アジア平和共同体と運命共同体の構築に努力しましょう」と語った。
続いて、もう1人のパネリストである村上泰教氏(WCRP日本委員会和解の教育タスクフォースメンバー、同青年部会幹事、石鎚山真言宗総本山極楽寺教学部長)は、「一時一時の相互利益追求を超えて、私たちは真の信頼と家族のような友情の結び付きを、いかにして構築するかをこれからも継続して考えなければならないでしょう」と述べ、「それには集団の基礎である個人と個人の関係性にもっと目を配らなければならないと思います」と付け加えた。
村上氏は、「偏見、差別する心は、争いやいら立ちを生みます。自身の内側にある問題を解決しながら、北東アジア各国、世界の全ての青年の自由な心を、われわれは保護する体制を整える必要があるでしょう」と述べた。
さらに、「私たちは、青年たちが率直な感情や意見をぶつけ合うことのできる環境、自由に交流できる仕組み、議論し合える場所を整え、また準備し、確かにそれを構築していくことが求められているのではないでしょうか」と問い掛け、「それが人と人のつながりの中から生まれる平和共同体の基礎を築くものとなるのだと私は考えます」と結んだ。
次に、韓国のオ・ビョンドゥ氏(KCRP中央委員、成均館対外協力室長、儒教)は、レイ司教の発題について、「宗教文化的観点から見ると、宗教は人間同士をよりむつまじくさせると同時に、互いを平等に扱うようにし、さらには慈愛と慈悲の心を持たせるなど、多くの共通点を持つということに、大変共感しています」とコメントした。
「このような諸宗教の文化に共通している調和、平和、慈悲、慈愛の理念と思想を深く理解することは、東北アジア平和共同体の構築を促すために必ず必要で、重要な価値があることだと思います。人間関係に変化と平和を与え、この世界を平和に満ちたところにするのは、自らを大切にする認識、愛、許し、そして配慮だと思います」とオ氏は語った。
オ氏は、儒教の観点から、「身を修めると、家庭が整えられ、家庭が正しくされてから国が正しく治まります。このように国を治めると、天下が太平になるのです」などと述べ、「私たちも不断に身を修めるのであれば、それが根本となって人類の平和構築にもつながるのではないでしょうか」と結んだ。
中国宗教界平和委員会委員のチャン・フェンレイ氏(中国人民大学教授)は、中日韓3国について、「国民の交流、また宗教界の交流を強め、民間支持のある相互信頼を構築するのは、3国関係の発展と地域平和共同体、運命共同体の構築には極めて重要だと思います」と語り、「東北アジア運命共同体の構築に自分なりの知恵と力量で貢献しましょう」と呼び掛けた。
その後、山本俊正氏(WCRP日本委員会理事、同和解の教育タスクフォース責任者、関西学院大学教授、元日本キリスト教協議会[NCC]総幹事)は、「人と人とのつながりと平和共同体の間には、非常に大きな距離があるような気がします」と述べ、日中韓の間で交流が非常に盛んであるにもかかわらず、「殊に従軍慰安婦の問題になると、それを否定するような意見が出てくる。また、領土問題になると、目くじらを立てて中国や韓国を責めたりする。そういう人たちが依然として多い」と指摘。「このギャップはどこから来ているのか」と問題を提起した。
その上で、「人と人とのつながりというのは、最初の基調講演の植松先生のお話のように、劇的な、生き方に変化をもたらすようなつながりや和解ということが生み出されることが一方であるのと同時に、交流をしているんだけれども、それがなかなか実質的な平和共同体に結び付いていかない」と述べ、「ですから、交流をした後に交流をしたことがどのようにその人の生き方につながっていったのかということの質を問うような調査をしたり、また交流というものが平和共同体の構築に結び付いていっているのかどうかという検証をしていったほうがいいんじゃないかなという気がする」と提言。「ただ交流をすればいいということではないし、その時に受けた非常に大きな感動とかそういうものが一過性で終わってしまうということも多くあるだろうと思うので」と付け加えた。
山本氏は、さまざまな交流がいろいろな所で起きている一方で、その質をそろそろ考えていく時が来ているのではないかという感想を持ったと語った。