9月2日から4日まで3日間にわたって、韓国宗教平和国際事業団(IPCR)と韓国宗教人平和会議(KCRP)が主催し、立正佼成会横浜普門館(神奈川県横浜市)9階特別会議室で「東北アジア平和共同体構築のための課題」をテーマに開催されたIPCR国際セミナー2016(世界宗教者平和会議[WCRP]日本委員会共催)。2日目にはセッションIとして「朝鮮半島における紛争解決:宗教者の役割と責務」をテーマに話し合いが行われた。
コーディネーターを務めたWCRP日本委員会平和研究所所員で同前所長の眞田芳憲氏(中央大学名誉教授、ローマ法・イスラム法・比較法文化論)は、「朝鮮半島問題をどうするか。この問題こそが東北アジア平和共同体の構築に向けての第一歩になろうかと思います」と述べ、このセッションのテーマの設定が「非常に的を得た」ものであると語った。
「朝鮮半島分断は第2次世界大戦の産物であります。日本は大きな責任を背負っている。その日本による朝鮮半島の支配を通して分断問題が起きてくる。この分断は日本はもちろんのこと、ロシア・中国・アメリカを含めて、世界の列強の中で戦われた戦いであって、そうした分断を考えるとき、朝鮮半島分断は東北アジア諸国共同の責任であり、この問題に対してそれぞれがどういう役割を負わねばならないのか、という重大な役割を私たちは背負わされていると思っている。そうした意味で、われわれ宗教者はどういう役割をさらに務めていくのか、その責任を果たしていくのか、さらにわれわれの使命を確認していきたい」と結んだ。
スピーカーのリ・スンファン氏(韓国・市民平和フォーラム共同会長)は、朝鮮半島の軍事緊張がいかに深刻かについて話した。リ・スンファン氏は、植松首座主教が基調発題で語った「人と人との関係性の中で出てくるコミュニケーションと和解」が、「共同体と共同体、さらには国と国との関係に発展していけばどんなにかいいだろうか。そして国の政策を和解とコミュニケーションによって変えるために、いまわれわれがこの場に集っているのではないかと思った」と述べた。
リ・スンファン氏は、朝鮮半島の軍事的危機との関連で最も重要な問題は、「全ての人々が、朝鮮半島の軍事的危機が、一方の脅威と挑発によって生じるというふうに考える傾向がある」と指摘。「軍事的危機には一方性というものはない。どちらか一方の挑発によって軍事的危機が高まるということはない。全ては相互作用だ。相互作用が進むことで朝鮮半島の軍事的緊張が高まる」とした。
「北朝鮮の核能力の強化は、北朝鮮が置かれている圧迫と封じ込めの現状を変えるために核能力を強化しているのであって、北朝鮮に対する韓国・アメリカそして日本まで含めて無視と封じ込めがこのまま続くと、北朝鮮は核能力の強化が進んでいるだけに、軍事的挑発を断行するだろう。自分たちの現状を変えるために、相手側の無関心と封鎖、そして圧迫を何とか切り抜けるために、軍事的手段に訴えることになるだろう」と、リ・スンファン氏は述べた。
そういった点で、核能力の強化が朝鮮半島における全面戦争の危険を高めているのが、現在の朝鮮半島の危機的状況だと、リ・スンファン氏は説明し、こう付け加えた。「問題は、北朝鮮のこのような挑発が一方的な挑発だと言いながら、韓米両国がそれよりもっと大きな脅威を創り出しているということだ」
「2002年、アメリカのブッシュ政権は北朝鮮を悪の枢軸と呼び、北朝鮮を核による先制攻撃の対象に含めた。2010年、アメリカは核レポートの中で、核なき世界のために、核を持つ可能性のある、または核を開発中の国々に対し、先制攻撃をできる具体的な内容を含めた。そのような内容がいわゆる作戦計画5015というもので具体化されている」とリ・スンファン氏は述べ、その主な内容として「核で北朝鮮を先制攻撃するという内容を具体化したものであり、そのために最高指導者を除去する、つまりキム・ジョンウン斬首作戦というものを軍事的に規定しているものが作戦計画5015だ」と語った。「この作戦計画5015によって、毎年、大規模な韓米合同軍事演習が行われており、これにはアメリカが誇る核戦略兵器B2、B52、そして各種の核戦力が動員されており、核を動員した戦争の練習というものが毎年行われている」と、リ・スンファン氏は付け加えた。
さらに、リ・スンファン氏は、「それに対して、火に油を注ぐかのように行われたのが、韓米両国によって発表されたTHAAD(Terminal High Altitude Area Defense、終末高高度防衛:サード)(ミサイル)の配備だ。THAAD配備の決定が持つ意味というのは、極めて深刻だ」と述べ、それは「北朝鮮が事実上、核を保有しており、それに対して軍事的に対応するということだ。これは北朝鮮の核能力の強化を阻止するためのこれまでの北朝鮮政策、特に韓国政府とアメリカ政府の北朝鮮政策が失敗したということを意味している。そして、北朝鮮の核を阻止することに失敗したことに対して、国民の血税を使った軍備競争で対応することを意味している」と語った。
リ・スンファン氏は、「朝鮮半島の軍事的危機を防ぐためにわれわれが何をすべきかという問題について、私は深刻に、そして本格的に議論すべき時が来ていると思う」と語った。その上で、北朝鮮を変えたり動かしたりする方法として、「われわれがまず第一に考えることができるのは、われわれが先に先制的な平和攻勢を行うこと。例えば、こちらの方から先に通常兵器を削減し、それを基に北朝鮮の核開発をやめさせ、北朝鮮も軍備を削減するよう要求することができる。ところがこの方法は現実的ではないし一方的である。まず韓国とアメリカ、そしておそらく日本の安倍政権もこのような先制的な軍縮は全く考えていないだろう。たとえ先制的に軍縮をするとしたとしても、北朝鮮がそれに応じるということも期待しにくいだろう」と述べた。
リ・スンファン氏は2つ目の方法として、「分断した南北がお互いに相手に対して干渉し、規律できる根拠を作ることだ」と述べ、その代表的な例として、2000年の南北首脳会談を通じて発表された6・15共同宣言を挙げた。「6・15共同宣言の意味は、南北が平和的にお互い共存するということに合意したものであり、平和裏に共存するために相手を刺激したり攻撃したりする内容を控え、統制することを約束したものだ」とリ・スンファン氏は説明した。
「分断当事国の南と北がお互いのために自粛し、自分の国家主義を規律するという約束は、極めて重要な約束だ。おそらく朝鮮半島を平和に導く、最も効果があり力のある方法になるのではないか」とリ・スンファン氏は述べつつ、「ところが、ご存じのように、6・15共同宣言は、現在、韓国においてすら、今の政権によってないがしろにされている」と付け加えた。
リ・スンファン氏は3つ目の方法として、「国際的な協力体制、あるいはおそらく国際的な連帯といったような方法を考えることができるだろう」と述べた。
その一例としてリ・スンファン氏は、「北朝鮮の核問題を解決するための6カ国協議は、非常に典型的な多国間の交渉だと思う」と述べつつも、「しかし現在、北朝鮮は北朝鮮の核保有を前提とする東アジアの秩序というものを進めようとしているので、6カ国協議への参加に非常に消極的だ」と語った。