モーセが「約束の地」を見渡した後に死んだと考えられている場所が、閉鎖から約10年を経て再び公開された。
ヨルダンの首都アンマンの南西約30キロにあるネボ山(標高817メートル)は、神がイスラエルの民に与えるとした「約束の地」を、モーセに見せた場所とされている。モーセはその後、神の命令によって亡くなっており、ネボ山はモーセにとって終焉(しゅうえん)の地となった。
ネボ山には、モーセの死を偲び、4世紀後半に建てられた教会と修道院の遺跡があり、その場所に遺跡を保存するモーセ記念聖堂が建てられている。ヨルダンで最も重要な巡礼地の1つとなっており、ヨルダン川西岸やエリコ、エルサレムなどを眺望できる。しかし、遺跡が崩壊しかけていることが判明したため、記念聖堂は閉鎖され、2007年から修復工事が行われていた。
15日には再開を祝う記念式典が行われ、教皇フランシスコの特使で、教皇庁東方教会省長官のレオナルド・サンドリ枢機卿が、宗教指導者やヨルダンの政治家、外交官ら500人余りを前に、「今この地にある霊的宝は、ヨルダンと人類のものです」と語った。
「私たちは教皇に感謝をささげます。教皇がこの象徴的な場所に、大変深い敬意を払っておられるからです。というのも、この地は三大一神教の対話と出会いがなされる場として、重要な役割を果たしているからです。その三大一神教は、どれもこの最愛なる中東の地で誕生しました」
「モーセという人物は、預言者として、神の友として、律法の付与者として、ユダヤ教徒、キリスト教徒、イスラム教徒の兄弟たちから実に高い評価を受けています」
サンドリ枢機卿は、「宗教史の宝がこの地域から略奪され、破壊されていた」時代があったことを念頭に、修復工事に当たった人々に感謝を示した。また、宗教的重要文化財に加え、難民の保護にも貢献するヨルダンに敬意を払った。
「このネボ山付近に国境を有するヨルダンは近年、パレスチナ、シリア、イラクなどの苦しめる地からやって来る、数千人に上る難民や亡命者を歓迎し、もてなし、癒やす場となっています」
「私たちは隣人との友愛による固い連帯により、人種や宗教の分け隔てなく、特に貧困と苦しみの中にある人々に新たな自由を提供しなければなりません。このプロセスは、神への深い信仰を要します。神は何ものによっても揺り動かされることはなく、恐怖や暴力を引き起こすことがないからです」
ネボ山は、1930年代に考古学者らが教会と修道院の遺跡を発見した後、カトリック教会が購入し、カトリックの修道会「フランシスコ会」が遺跡の管理責任を担ってきた。巡礼者からの人気も高く、先々代の教皇、故ヨハネ・パウロ2世は、2000年3月に聖地旅行の際に訪問している。また、前教皇ベネディクト16世は、09年にこの地でスピーチを行った。